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第446話・招待状

 

 呼び出し音が響く中、ため息をつきながら俺は携帯を指差す。


「出て良いか?」


 ニッコリと笑いながら、短く頷く大天使ミニットマン。

 相変わらずとんでもない神力の宿った指はこっちを向いているが、俺は構わず通話を繋いだ。


『あーやっと出た! おっそいぞ、それでも彼氏か!』


 元気なミライの声が飛び出すも、今の状況を伝えることはできない。

 っというか絶対に来させてはいけない。


 多分現在のミライをもってしても、眼前の大天使にはまるで歯が立たないだろう。

 それだけ、このミニットマンというヤツは“規格外”なのだ。


『ちょっとー、聞いてる? アンタに話があるんだけどー』


 群衆の声が混ざっているってことはまだ外か。

 正直申し訳ないが、グダグダ話している場合じゃ無い。


「すまんすまん、マスターにちょっと頼まれ事されててな。今手が離せないから掛け直すよ」


『えっ? ちょっとアルス––––』


 強引に切って、ミニタブを机に置く。

 俺は改めて、ベッドへ座るミニットマンを見つめた。

 彼女もまた、不気味な微笑みを崩さない。


「無愛想ねー。彼女は大事にしなさいよ〜、女はこういう時に不満を溜めるものなんだから」


「誰のせいだよ」


「てへっ、ゴメンゴメン」


 唐突に、何の前触れもなくミニットマンの指先に閃光が走った。

 もはや条件反射で首を動かすと、直前まで顔があった位置を極密度の細いエネルギービームが通過していた。


 背後の壁に、焦げた穴が空く。


「ハハっ! 凄い、ホントに今の避けちゃうんだ。竜王級は異能力じゃなくて“体質”って言うの……本当だったのね〜」


「何を今更……、そもそも。人間が作った等級に大天使が拘るもんなのか?」


「もちろん拘るわよ。だって、世界で初めて生まれた竜王級は––––」


 ミニットマンは、何の気なしの無邪気な顔で呟く。


「わたし達、全ての天使の祖たる“第一天使”だもの」


「ッ……!」


 第一天使……。


 最初の竜王級が天界人?

 この期に及んで冗談とは思えんが、どうにも信じられない。

 じゃあそうなると、魔導士のランクを決めているこの等級は……。


「あっ、察し良いじゃない。そうよ」


 立ち上がったミニットマンが、俺に近づく。


「全ての等級は、古の時代にわたしたち大天使が作った。人間はそこに自分たちを当てはめたに過ぎないのよ。まぁ人間の中から、アンタという異物(アノマリー)が生まれたのは想定外だったけど」


 指先の神力を収めたミニットマンは、本棚を見つめた。


「何これ……、経営学? あなたこんなのに興味あるわけ?」


「お前には関係ないだろ。っで、何の用だ。こっちは冬休みの課題で忙しいんだが?」


「あら、釣れないわね〜」


 再びベッドに腰掛けた彼女は、ポケットから4枚の封筒を取り出した。

 装飾はやたら派手で、カラフルとでも言おうか。


 小さな手で、差し出してくる。


「近々わたしが主催する『パーティー』に、あなた達を招待してあげる。これはその招待状ってわけ」


 嬉しそうに渡して来たそれは、一見ただの紙。

 細工の類いはしてなさそうだ。


 宛名は俺とアリサ、ユリアにミライ。

 素直に受け取り、ミニタブの横に置いた。


「こいつはどうも、じゃあサッサと帰ってくれ」


「ばっ! ホント冷たい男ねあなた、こういう時はちゃんと喜ぶのが礼儀ってもんでしょう?」


「あいにくと、天使に優しくするほど甘くないんでな。破かなかっただけ温情あると思うんだが?」


「ムカつくわねこいつ……、まぁ良いわ。招待状は渡せたし––––本題に入りましょう」


 ニッコリと笑った大天使ミニットマンは、屈託ない笑顔で言い放った。


「どう頑張っても……あなた達人類じゃ天界には勝てないから、できれば降伏して欲しいの。賢いヴィルヘルム帝国みたいにね」


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