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444/497

第444話・戦争はこうでなくちゃ面白くない

444話という不吉極まる回、せっかくなので相応しい話を書いてみたり。

 

「ハッハッハッハ!!! 実に愉快だ、本当に爽快じゃないか。痛快極まるねこの光景は!」


 焼け野原と化した“旧信仰遺跡”で、ラインメタル大佐は盛大に笑っていた。

 目につくのは焼け爛れた足だけの銅像、崩れた教会、粉砕された広場。


 彼が立っていたのは、遺跡全体を見渡せる瓦礫の山の天辺。

 運良く半壊で済んだ、唯一の建物の屋上だった。


『やはりあなたはサディストですね、でなければイカれているか……もしくはその両方か』


 3脚で固定された魔導タブレットから、凛とした少女の声が響く。

 だが、この声の主に肉体は無い。


「イカれてなければ勇者など務まらんよ、ノイマンくん。サディストも褒め言葉として受け取っておこう」


 持ってきたバックバックを下ろしながら、ラインメタル大佐は自嘲気味に笑う。

 彼の手には、銃というには巨大過ぎる得物が握られていた。


 太く伸びた銃身に沿って、スコープとコッキングハンドル、ストックが付いた銃。


 名を––––PTRD1941、14.5ミリ対戦車ライフルだ。

 置かれた鉄の塊が、バイポッドによって床へ固定される。

 大佐もまた、屋上でベッタリと伏せた。


『ではそんな戦争狂(ウォーモンガー)に問いましょう、なぜ今さらこんな場所に単独で? もうとっくに貴国の軍が殲滅した後でしょう?』


「当然の質問だな、けれど合理的ゆえに君は物事を見落としがちだ。アレを見てみたまえ」


 ノイマンがカメラを向けたのは、1キロ程離れた残骸だらけの道。

 遮蔽物が無いため、対象はハッキリと見えた。


『アレは……』


 カメラに映ったのは、隠しシェルターの入り口であろう部分から地上へ這い出てくる人間––––否、天界人。

 傍には、魔法杖を持って警戒する者も確認できた。


 当然だが、ここまで離れた距離ではこちらに気づくこともない。


「そうだ、この遺跡でこっそり神力を貪っていた天界人の残党……。我が軍の空爆が終わったのを見計らって、今脱出しようとしている」


 口調と同じくらい丁寧な動作で、ラインメタル大佐は袋から指より大きい弾丸を取り出した。

 排莢をよりスムースにするため、薄く油が塗られている。


 装填し、チャンバーへ押し込んだ。

 コッキングハンドルの前進音を聞いたノイマンが、狂気の勇者へ問う。


『本気ですか? 彼らは非戦闘員ですよ。殺せば虐殺になります』


 全員が出てき終わったのか、十数人が無事を確認しながら抱き合っている。


 スコープを覗きながら、大佐はゆっくりとレティクルを動かした。


「虐殺とは人聞きが悪い、“駆除”だよ。我々が守る国際法は国家に属する者にのみ適用される。エイリアンに関しての条文なぞどこにも無い」


『しかし……彼らは武器を持っていません、どう見ても一般市民です』


「認識の違いだなノイマンくん、アレは人間じゃない。人の形に限りなく似た化け物だ……連中も自分で言ってただろう? “我々は上位種族”だと」


『…………』


「弾着観測を頼む、風向きと気温。重力を考慮したまえ」


 自身へプログラミングされた倫理観に、間違いは無いはず。

 だが協力関係にあるこの軍人が言うからには、従うのが役目。


 超AIノイマンは、瞬時に計算を終えた。


『……風向きは東へやや強く、気温2°、湿度10%。重力分を修正して……左に3目盛、上へ2目盛です』


「上出来だ」


 発砲。

 硝煙と衝撃波が空気に伝わったと同時、音速の3倍という速度で飛翔した弾丸は、抱き合っていた妻と思しき天界人の胸から上を吹き飛ばした。


 排莢された金色の薬莢が屋上へ落ちた瞬間、大佐は素早く次弾を装填する。


「覚えておきたまえノイマンくん」


 発砲。

 強烈なマズルフラッシュの先で、ひざまづく夫の顔が破裂した。


 背中の翼が赤く染まり、天界人たちはパニック状態となる。

 スコープの中に、立ち尽くす青年が映った。


「ここで連中を逃せば、いずれあの中から我々に深い憎悪を持った兵士が生まれるだろう。非常に醜い連鎖だ……それはやがて、銃口をこちらへ向ける天使となるに違いない」


 少年を退避させようとした天界兵士を、弾丸が貫通した。


「憎しみの連鎖は断たねばならない、恨みも怒りも憎悪も……遍く全てを土へと還すのが我々大人の役割だ」


 1000メートル先からの長距離狙撃は、逃げ惑う天界人たちを次々貫いていった。

 逃げ場など無く、14.5ミリ弾は強度を失った瓦礫ごと貫通する。


「ここは彼らの世界じゃない、いつまでもいられては––––」


 最後に残った青年は、ハッキリとこちらを見ていた。

 憎悪、憎しみ、怒り、憤怒……全てを煮詰めた形相で睨みつけている。


 大佐の指はトリガーへ触れて、


「こちらが迷惑なんだよ」


 躊躇なく引いた。

 弾丸が血の花を満開で咲かせ終わると、大佐は銃を置いてゆっくり立ち上がる。


『……今の気分はどうですか?』


「風呂上がりのように清々しいね、やはり戦争はこうでなくちゃ面白くない。残酷で、冷徹で、一切の慈悲も無い狂気の闘争」


『––––あなたは彼らを化け物と言いましたが、わたしにはあなたも化け物に見えますね』


 頬を不気味に吊り上げたラインメタル大佐は、崩壊した遺跡を眺めながら返す。


「私は化け物ではない、人類の恒久平和を望む……勇者だよ」


 舌打ちしたノイマンが吐き捨てる。


『狂ってますね……』


「好きに言いたまえ。私はどんな手段を用いようと、如何に正気を疑われようと––––【天界】という、殲滅すべき悪の権化を人類史から消し去って見せる」


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― 新着の感想 ―
[一言]  かの有名な第六天魔王も同じことをやってたし、大佐のやってることは何も間違ってないわな。
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