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第441話・80センチ列車砲

 

「前線より弾着報告! 全弾命中、繰り返す、目標に全弾命中!!」


 ––––美術都市レクイエム 郊外。


 前線からおよそ60キロ。

 列車基地であるここには、王国最大最強の砲が整列していた。


「ラインメタル大佐の命令で動いたは良いが、まさか本当に役立つとはな」


 統制長が見上げた先にあったのは、レールの上に乗った果てしなく巨大な砲だった。

 戦車とは比べ物にならない長さと大きさ、戦艦すら上回る口径を持った兵器。


 名を––––“80センチ列車砲”だった。


 1門ですら強力極まりないこれが、なんと7門も砲口を上に向けていた。


「一番砲より統制長、再装填完了! いつでも発射可能です」


 80センチともなると、大都市の1区画分を丸ごと吹っ飛ばす威力だ。

 それゆえに、本来であれば莫大な装填時間が掛かる。


「了解、照準用意」


 だがこの列車砲は、改良により自動装填装置が付いた最新型。

 撃ち出す砲弾も新品であり、“射程延伸誘導砲弾”というちょっと長い名前のもの。


 その名の示す通り、射程90キロ以上を誇るGPS座標誘導型砲弾だ。

 通常弾であれば40キロが良いところである射程だが、この新型砲弾は倍以上の距離を、着弾誤差10メートル以内で収める超高級弾。


「全車、修正諸元を入力! 第2射用意!」


 狙うは60キロ彼方の巨大円盤。

 砲門を指向した列車が、固定される。


「撃てェッ!!!」


 雷鳴の数倍はあろう轟音が、大気を思い切り叩いた。

 都市全体に響き渡った砲声と共に、巨大砲弾は弧を描いて飛翔していく。


 ◆


 浮遊機能に支障をきたした円盤は、徐々に角度が斜めを向いて行った。

 よく見れば、船体の各所からスラスターが全力噴射されている。


 真下にある遺跡を潰すまいと、必死に姿勢制御を行なっているのだ。


 当然だが、この好機を見逃すルクレール将軍ではない。


「全部隊に通達! これよりTOT(タイム・オン・ターゲット)射撃を行う! 弾種、対戦車榴弾!!」


 TOT射撃とは、口径の異なる砲を同時に弾着させる技術だ。

 高度な計算技術、統制技術を必要とされるこれは、強力だが行える軍隊が少ない。


「将軍、80センチ列車砲が第2射を実施。こちらへ向かっています」


「よし、後方の自走榴弾砲旅団へ大至急指示。203ミリ砲、および155ミリ榴弾砲の発射を開始」


「了解!」


 後方15キロの地点で、100両以上の自走砲部隊が砲撃を開始した。

 空中へ撃ち出され、すぐに列車砲弾の前方へ飛翔する。


「全車へ通達! 10秒後に一斉砲撃、狙うは下部のスラスターだ! 外すなよ」


 少尉のカウントダウンが始まる。

 この間も、円盤は死に物狂いで体勢を整えようとしていた。

 しかし、彼らの運命は既に決したのだ。


 これはもう、逃れようがない。


「発射用意––––撃てッ!!!」


 硝煙が丘陵を覆った。

 真っ直ぐに飛んで行った105ミリ砲弾群は、真上から降り注いだ155ミリ、203ミリ、80センチ砲弾と0コンマの差で同時着弾する。


 戦車砲の命中により、円盤をかろうじて支えていた下部スラスターが破壊された。

 さらに、ど真ん中へ着弾した列車砲などが船体に大きな亀裂を発生させる。


 とうとう浮遊能力を失った円盤が、その身を遺跡の上へ横たわらせた。

 大地が激しく揺れ、建造物が押し潰される。


「今だ!! 全部隊、全兵装発射(フルファイア)ッ!!!」


 展開中の全ての車両が、容赦なき一斉射撃を開始した。

 上空からは補給を終えて戻って来たスツーカ50機が、遺跡の中心で炎上する円盤目掛けて、500キロ爆弾を急降下しながら落とす。


 戦車部隊、自走砲旅団、列車砲もあらん限りの全力射撃を展開。

 圧倒的な暴力が、爆炎となって円盤ごと遺跡を焼き払っていく。


 その凄まじい光景は、天界の重要補給基地がまるで地獄の業火で焼き払われるようだった。


 神を祀った神殿が、天を崇めた信仰建築が、崇拝を捧げるための広場が。

 等しく平らにならされ、吹き飛ばされていく。


 戦車部隊の残弾がゼロになる頃には、もはや栄華を誇った信仰遺跡など微塵も残っていない。

 あるのはバラバラにされた円盤の破片が散らばり、殆ど更地と化した焼け野原のみ。


 上級大将ルクレールは、硝煙まみれの顔で無線機を取った。


「ルクレール戦闘団よりHQ、遺跡の殲滅に成功。これより帰投する」


 これに続くように、世界各地で連合軍は天界の遺跡を次々と攻略していった。


 1月1日〜3日にかけて、天界は地上に持っていた7割以上の拠点を喪失。

 短期間で、擁護できないレベルの圧倒的な敗北を喫した。


 しかしこれは、まだ始まりに過ぎない。

 あと1つ––––重要な拠点が残っていた。


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