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第440話・巨大円盤攻略

 

「遺跡までの距離、残り6キロ! そろそろですかね……閣下?」


 前進を続ける戦車部隊の先頭で、攻略軍を指揮するルクレール上級大将は腕を組んだ。


「私が天界軍なら、追い詰められたこの状況……必ず使うだろうな。司令部はなんと?」


「今入ってきた情報があります、ヴィルヘルム帝国を陥落させたウロボロス級航宙母艦が、このエリアに向かっているとのことです」


 頬を吊り上げ、通信機を持つルクレール。


「全車へ告ぐ、これより我々は自走砲旅団の準備ができ次第遺跡の殲滅を開始する。だがこれに伴い、天界の巨大円盤が襲来することは決定事項と言えよう」


 キューポラから身を乗り出した先に、丘陵が見える。

 あそこを突破すれば、いよいよ射程圏内だ。


「しかし我々を止めるには、まるで足らないことを連中に見せつけてやろうじゃないか! 全速前進!!」


 エンジンが唸り、いよいよ戦車部隊は丘陵を登り始めた。

 砲身の先に見える空が傾き、ルクレールはとうとう高台から見下ろす形で巨大遺跡を目にした。


 同時に、否が応でも視界にそれは映る。


「全車! ここからが本番だ、気を引き締めろ!!」


 60両の戦車部隊の先に浮かんでいたのは、遺跡を守護せんとする天界の巨大円盤だ。

 全長は700メートル強、全身に陽電子ビーム砲やミサイルを搭載したまさに空中機動要塞。


 ルクレールは、ただちに所定の行動に移る。

 円盤の縁や下部から、赤い閃光が瞬いた。


「よしっ、全車––––“ビーム撹乱剤”射出!!」


 ポンっというマヌケな音と共に、本来身を隠す兵装であるスモークグレネードランチャー。

 その発射機から、大量のモヤが空中へ撃ち出された。


 戦車隊を一瞬で覆ったそれは、なんと円盤が放った330ミリ陽電子ビーム砲を四散させたのだ。

 当然戦車は無傷、ルクレールは全く動じていない。


「ファンタジア空爆を受けて、かねてより開発されていた新防御兵装の急投入だったが……上手く行ったな」


 この撹乱剤は、名の通り光学兵器を局所的に無力化するもの。

 元は光属性魔法に対しての運用を想定されていたが、ここにきて天界の兵装へ十分通じることがわかった。


 無論、敵もバカでは無い。

 陽電子ビーム砲をしばらく撃ち続け、なおも撃破できない戦車部隊へ別の兵器が向けられる。


 大量の対地ミサイルが、円盤下部から生えてきた。

 ルクレールはすかさず無線機を取る。


「諸君、神業を見せてやれ。弾種変更、キャニスター弾」


 キャニスター弾とは、簡単に言えば戦車砲で撃つショットガンだ。

 凄まじい量の散弾を、広範囲に向け撃ち放つ。


 ––––––––ボボボッ––––!!


 円盤のランチャーから、60発を超えるミサイルが発射された。

 真っ直ぐ向かってくる弾頭へ、各車がゆっくりと砲身を定める。


「…………、今だっ! 撃てェッ!!」


 横並びの戦車が一斉に砲弾を撃った。

 上下左右と広範囲に広がった散弾は、接近していたミサイルを1発残らず叩き落とした。


 タイミングが早くても、遅くても失敗する。

 まさに––––神業だった。


「司令、迎撃成功です。しかしこのままだとジリ貧では……」


「問題ない、時間は十分に稼げた」


 ルクレールが言うと同時、円盤の上部でいくつもの爆発が発生した。

 展開を終えた自走砲旅団が、砲撃を開始したのだ。


「我々戦車は敵を惹きつければその時点で勝ちだ、敵は気づくのが遅れたな」


「た、確かに攻撃はできましたが……あのサイズの母艦相手にはいささか火力不足では?」


「大丈夫だよ少尉、もう勝負はついた」


 直後、円盤を何十倍も大きな大爆発が襲った。

 7回起こったそれは、大質量の円盤から浮遊制御機能を奪い去る。


「ラインメタル大佐のプレゼントが、ようやく仕事を始めたな」


 正体は––––前線の遥か後方、60キロの位置に存在した。


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