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第436話・電撃作戦

 

 遺跡前方に広がる森の中で、10機の黒光りした円盤が空いたスペースに駐機していた。

 周囲には仮説のテントや、何より複数の“多脚戦車”が配置されている。


「イゾンツォ準天使長、平野部への爆裂魔法地雷––––敷設完了しました」


 報告を行ったのは、真っ白な装束に小さな羽根を生やした男。

 彼だけではない、辺りにいる者たちもみな一様に同じ格好だった。


「フッ、全く愚かな連中だ……。向こうとこちらで航空技術に隔絶した差があるのがわからんとはな」


 腕を組みながら椅子に座ったのは、先ほどイゾンツォ準天使長と呼ばれた男。

 彼は大天使ミニットマンに仕える天界の民であり、ここには信仰遺跡防衛のため来ていた。


「事前の航空偵察では、主力戦車と思しき兵器が60両だったか?」


「はっ、そのように確認しております。現在は敵自走対空砲の攻撃を避けるため偵察を中断しています」


「構わんさ、敵は平野部を突っ切るしか道はない。常人ならせっかくの機甲師団をむざむざこんな森には入れないからな」


「そして罠へ入ったところを……師団ごと吹っ飛ばす。さすがイゾンツォ隊長、見事な防衛計画です」


 部下の機嫌取りに、イゾンツォは上機嫌に返した。


「まぁな、ここで戦果を挙げれば名誉天界市民……いや。もしかすると大天使への出世だってあるかもしれん。こんな勝ち戦で手に入るのなら、楽な仕事だよ」


 見渡せば、森の奥へ展開していく多脚戦車が映った。

 アレは申し訳程度にある司令部防衛用なので、残念ながら発砲する機会は与えられないだろう。


 天界軍本隊は、森の左右にそれぞれ100機を超える数を配置している。

 もし爆裂魔法を生き延びても、後詰のそれが一気に押し潰す算段だ。


 素晴らしく完璧で、非の打ち所がない作戦と言えよう。

 イゾンツォは自らの有能さに、思わず高揚する。


 それゆえに、気づかなかった––––


「なんだ?」


 彼らの頭上を、鳥の大群が通過していく。

 種類は様々で、空が塗りつぶされんばかりだ。

 小さな疑念を抱いた瞬間、彼の素晴らしい防衛計画が粉砕される。


『グレイプニル1より司令部!! 緊急じた––––』


 無線機から飛び出た声が途切れると同時に、森の奥から連続で炸裂音が響いた。


 空を見れば、何ヶ所かで一斉に黒煙が上がった。


「おいおい……、どういうことだよっ」


 立ち上がったイゾンツォへ向かい、別の天界兵が走って来た。


「大変です! 森のど真ん中に敵機甲部隊が出現!! もの凄いスピードで襲撃してきました!!」


「はぁ!? なんだと!! どういうことだ……敵は平野部に行ったんじゃなかったのか!?」


「いえ、敵戦車は全てこちらへ出現! 旧道を無理矢理突っ込んで来ています!」


 爆発音が鳴り響き、しかも距離がドンドン近づいて来ている。

 イゾンツォは、弾かれたように駐機中の円盤を見た。


「マズイ! 今すぐ全機発進させろ!! 地面にいるところを狙われたらひとたまりも––––」


 彼の悪い予想は、すぐに的中した。

 話し終える間もなく、木々の奥から飛んできた105ミリ戦車砲弾が円盤を直撃。


 破片を撒き散らしながら爆発した。


「グゥッ……! クソ! 何故だ、なぜだなぜだなぜだ!!!」


 茂みの暗闇を裂いて、正面にいくつもの発砲炎(マズルフラッシュ)が瞬いた。

 横に降り注いだ砲弾が、次々と駐機場の円盤を撃ち抜いていった。


 爆発は爆発を呼び、吹っ飛んだ円盤が隣の機体にぶち当たってひっくり返す。

 必死に浮き上がった円盤もいたが、願い届かず下から撃ち落とされる。


 司令部要員が大半を占めるここには、小火器の類いしか無い。

 唯一の機動手段を失った天界軍は、逃げることすらできなくなった。


「イゾンツォ隊長! 指示をください!!」


 狂乱状態となった司令部で、さっきまで余裕の態度だった部下が悲鳴を上げる。


「ふざけるな!! こんな状態で指揮なんて出せるか! 今すぐ逃げ––––」


 それがイゾンツォの最期の言葉だった。

 司令部陣地を薙ぐように撃ち込まれた機関銃の弾幕が、逃げ惑う天界兵を容赦なく貫いていった。


 当然イゾンツォも例外ではなく、身体中に弾丸の雨を受けて即死。


 上官の死を目の前で見た部下も、逃げた先で円盤の爆発に巻き込まれて死亡。


 血と静寂に包まれた司令部を、無傷の戦車部隊が通り過ぎる。

 事前の衛星偵察で、ここに司令部があるのは分かっていた。


 その上で、ルクレールは天界による航空偵察を妨害するため、対空能力を持った装甲車を先行させていたのだ。


 全てが功を奏して中央司令部の電撃的壊滅を達成したアルト・ストラトス軍は、次の作戦へ移った。

 これから始まることに比べれば、まだ前菜に等しい戦果である。


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