第435話・進撃、アルト・ストラトス長距離遠征打撃軍
薄い小山へ連なるように陣取っていたのは、アルト・ストラトス陸軍の誇る機甲師団だった。
名を“長距離打撃遠征軍 ルクレール戦闘団”。
カンプグルッペ・ドクトリンに基づいて編成された、諸兵科連合部隊である。
彼らは60両を超えるティーガーⅡ改3主力戦車を中心に、周囲を偵察装甲車で固めていた。
その中心にいる戦車のキューポラ(戦車上部の穴)から上半身を出しているのは、軍服に大量の勲章を付けた男。
「中継はどうだ?」
「はっ、ルクレール司令! 通信良好、“フラッグ車”の車載カメラはリアルタイムで大使館へ送られています!」
ルクレールと呼ばれた上級大将は、ニヤリと狼のように頬を吊り上げる。
本来であればこのレベルの階級を誇る軍人が、前線に出ることはありえない。
しかし、彼もまたラインメタル大佐に死にかけるまで鍛えられた身、常在戦場を常とする精神を持っていた。
何より––––
「我々の戦いを、大佐や竜王級に見てもらえるなどそう無い機会だ。腕が鳴るじゃないか……!」
ルクレールも戦人に違わぬ、常人を超えた闘争心を持つ。
それゆえ、彼の信条も異色だった。
「超人的な力で敵を圧倒する魔導士もありだが、やはり戦は総合力が物を言う、単身で戦争はできないという竜王級自身の考えが正しいと証明しようじゃないか! 1号車から全車へ通達––––」
無線機を近づけたルクレールは、広げた地図を見ながら指示を出す。
「遺跡までの距離は40キロ、我々の前進と同時に後方の自走砲旅団も動き出す。途中の森は気にするな、最大速度で突っ走れ」
「司令、戦車は平原でこそ活躍するのでは……? 森では機甲戦力の効果が半減します」
意見具申した中尉階級の軍人へ、ルクレールは冷静に諭す。
「貴官の意見は士官学校であれば満点だろう、しかし今回においては50点の回答だ」
「なぜです?」
「考えたことは無いか? 相手は底意地の悪い天使だ––––平野部には必ず“爆裂魔法陣地”がある。ノコノコ通ればまず吹っ飛ばされるだろう」
「なるほど、そうでしたな」
「それに––––」
地図を畳みながら、ルクレールは前を向く。
「竜王級は、我々の戦い方を絶対に気に入ってくれるだろう。彼の期待を無様な敗北で裏切りたくない」
「敵も、まさか戦車が森を突っ切るとは思いますまい。了解致しました!」
全戦車のエンジン音が唸り、地響きが発生する。
「2隊に分かれて直進する、偵察車は本隊より3キロ先行! 敵を見つけたら即座に報告しろ!」
了解の返事と共に、4両の装甲車が発進していく。
後方の155ミリ自走榴弾砲部隊からも、発進準備完了の報告が届いた。
「さて、我々が森を抜ける頃には“大佐からのプレゼント”も準備ができるだろう。今宵の戦は天界へ打ち込む楔となる、我々はその先端だ! 各員の奮闘に期待する!」
上級大将ルクレールは、腕を前に勢いよく振り下ろした。
「戦車前進!!」
60両の主力戦車が、一斉にエンジン音を轟かせた。
履帯が土を掻き回し、重厚な車体を軽快に運んでいく。
目指す先は––––天界の守る重要拠点。
その圧倒殲滅だ。




