第434話・大攻勢
––––在ミリシア、アルト・ストラトス大使館。
ミリシア国内でありながら、威風堂々––––外国領土として認められる特別公館。
その堅牢な建物の奥で、俺たちは新年早々に集まっていた。
「やっほー3人共、あけおめあけおめ〜」
大使館職員に連れられた制服姿のミライが、俺たちのいる大部屋へ入ってくる。
相変わらず陽気で、元気に手を振りながら近寄ってきた。
「あけおめミライさん、元気してたー?」
早速挨拶のハグをかますアリサに、ミライは顔を赤らめながら興奮した。
「うっひょーアリサちゃーん! 相変わらず良い匂い〜、やっぱ可愛いなー!」
「えへへ〜」
そう言って頭を撫でていたミライだが、途中で手がピタリと止まる。
目を丸くし、目の前のアリサを見つめた。
「アリサちゃん、なんかいつもより匂い強くない? 香水とか付けてないよね?」
「「ッ!!?」」
肩を震わせ、同時に冷や汗をかく俺とアリサ。
そういえばこいつには、まだあのこと言ってなかったな。
どうする……けど大使館で言うのは流石に憚られる。
黙り込んでしまった俺たちに、横から慈悲の助け舟が出された。
「シャンプーを変えたそうですよ、それが原因ではないでしょうか。ブラッドフォード書記」
みんなと同じく制服姿のユリアが、さりげなくフォローを入れてくれる。
やはり俺が選んだ副会長、戦闘以外でも頼りになるな。
さっきまでセッ※※連呼してたけど……。
「うーん、そうかしら……まぁいいわ。せっかく久しぶりに4人揃ったんだし」
納得するミライ。
そう––––俺たち生徒会が集まるのは、王城で大怪盗イリアこと第一王女アイリと戦った時以来だ。
日数にすれば大した時間じゃないが、もう随分と前に感じられる。
「で、なんでわたし達は集められたわけ? 当然主催者さんがいるんでしょ?」
アリサとのハグを終えたミライが、周囲をキョロキョロと見回す。
もちろんその通りで、彼女の背後に1人の男が立った。
「やぁ生徒会諸君、新年早々来ていただいて感謝の極みだ」
真っ黒な軍服に覆われた軍人にして元勇者、ジーク・ラインメタル大佐だ。
今朝寮へ現れて、招集を掛けた張本人。
俺たち生徒会を一声で集められる人間など、王族を除けばこの人くらいのものだ。
「来てもらって早々だが、報告がある。先程––––午前6時30分、天界の襲来を受けていたヴィルヘルム帝国が無条件降伏した」
「「「ッ!!?」」」
ヴィルヘルム帝国って、ユリアの母国じゃねえか。
しかも無条件降伏って……。
「ユリア……」
思わず横を見るが、当の本人はさして動揺していなかった。
「お尋ねしますが大佐、ヴィルヘルム帝国が襲来を受けたのは、他の国と同時期ですよね?」
「そうだ、天界の巨大円盤は我が国とミリシア、そしてヴィルヘルムに降りた。だがこの内2隻は既に撃沈されている」
ファンタジアを襲った円盤部隊は、確かにこないだ俺がすべて片付けた。
アルト・ストラトスだって世界を統べる超大国だ、アレを堕とせる魔導士や兵器がいても不思議じゃない。
「帝都での戦闘は確認できたのでしょうか?」
矢継ぎ早の質問に、大佐は淡々と答える。
「いや、衛星写真では確認できなかった。円盤はここ何日も帝都上空を浮かんでいる」
その言葉を聞いた瞬間、ユリアの表情が変わった。
あえて言うならば呆れ、更にはため息まで吐いていた。
「やっぱり……、信仰主義が根付くと碌なことがないですね」
「ユリア?」
「いえ––––なんでもありません、会長。大佐もありがとうございます、ですが今は、もっと優先すべきことがあるのではないですか?」
姿勢を正したユリアに、大佐は歩きながら返答する。
「すまんがその通りだ、我々は本日をもって全世界規模で天界に大攻勢を掛ける」
職員が電気を消すと、Uの字型になった机の正面へモニターが降りてきた。
映像が投影される。
「作戦名は『オペレーション・エンジェルブラッド』、君たちにはその楔の切先となる部隊の映像をリアルタイムで見てもらう。是非––––応援してくれたまえ」
ユグドラシルネットを通じて、映像が送信された。
俺の鼓動が一気に高鳴り、興奮が襲い掛かる。
モニターへ映ったのは、魔獣も蹂躙する鋼鉄の虎。
小山に陣取る、大量の主力戦車部隊だった。




