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第432話・ユリアの困惑

いつも「いいね」を押してくださっている方、最近押し始めてくださった方。ありがとうございます。

作者視点では、これが大変励みになっております。

 

 俺とアリサは、絨毯の上で正座させられていた。

 一応服を着ることは許されたので、隣ではシワでぐちゃぐちゃになった体操着を纏うアリサが座っている。


 彼女は無駄な抵抗を一切諦め、ユリアに対し既に降伏の構えを見せていた。

 そして、目の前に座ったユリアからは––––


「Zu dem Geruch in diesem Raum und Alisas Nacktheit verlange ich eine Erklärung」


 不気味な笑顔と共に、全くわからん言葉で問い詰められていた。

 多分というか間違いなく、ヴィルヘルム帝国語だろう。


 普段からミリシア語を喋ってくれているので忘れていたが、こいつこっちが本場だったっけ。

 ってか、母国語になるレベルで怒っているのか……?


「アリサ、なんて言ってる……?」


 とりあえず語学堪能––––マルチリンガルな彼女に助けを求めると、翻訳した答えはすぐに返って来た。


「こ、この部屋の臭いと……わたしの裸について説明しなさいって……」


「あぁ……っ」


 やっぱか。

 そりゃそうだよな、ユリアからすりゃ里帰りから戻って最初に見た景色がこれだ。


 ヒステリックを起こさないのは、まだユリアの懐が大きいからだろう。

 だがまずは……。


「ゆ、ユリア……、とりあえずミリシア語で喋ってくれるとありがたいんだが」


 会話できる状態に持っていかなくては。

 俺の声に、数秒黙った彼女は––––


「はぁ、全く……人が目を離すとすぐこれですよ」


 今度はちゃんと、ミリシア語で喋ってくれた。


「なんというか、その……すまんユリア。決して隠そうとはしていなかったんだ。ちゃんと後で話すつもりではいた」


「わかってますよ、会長のことです––––おそらく惰性の感情ではなく、相応しい理由があったのでしょう?」


「ん、おぉ。そこはアッサリ納得してくれるんだな」


「わたしだって子供ではありません。やれ些細な時柄で、沸騰するヤカンのようにはなりませんよ」


 どうやら、とりあえずの理解は示してくれたらしい。

 だが、


「で、改めて聞くんですけど……2人はその。こ、恋人の営みをやっていたんですか?」


「直球だな、おい」


「いやだって気になるでしょう!? なんですか! この部屋の臭いは! ベッドとアリサっちの乱れ具合は! ちゃんと教えてください、言わなければ今ここで特大魔法を撃ちますよ」


 どうやら怒っているのではなく、ただただ普通に動揺しているだけのようだ。

 考えてみれば、母国語になった時点で察するべきだった。


 なら、ここはあえて––––


「あぁ、やったよ」


「ッ!!?」


 開き直り。

 包み隠さず、全てを話そう。

 それが、今ユリアにできる誠意の送り方だ。


「俺がアリサをひん剥いた」


「ひんっ……!!?」


 顔を真っ赤にして、何やら声とも言えない声を出す。

 よし、多分もう少しでわかってもらえそうだぞ。


「そんでアリサに※※して––––」


「だ、大体わかりました! もうその辺で大丈夫です!」


 両手をブンブンと振るユリアだが、しばらくしてそのゆびはモジモジと動き出す。


「ひ、1つ聞きたいんですが……」


「なんだ?」


「あっ、いや、まずアリサっちから……」


「あっ、おぉ」


 ユリアの碧眼が、目の焦点が合っていないアリサへ向けられた。


「や、やってみて、ど、どうでしたか……!? 黙ってないで感想くらい聞かせてください」


「あっ、うん……えっと。なんか」


「なんか?」


「えーとね、色々と凄かった」


「すごっ……!」


「もう幸福感と快楽って言うのかな、アルスくんの愛が凄すぎて、叫んでたら喉が痛くなった」


「そ、そこまで……!」


「行為自体の良さはよくわからなかったけど、人の暖かみ? それを直に感じれて……わたしは1人じゃないんだって確信できた」


 途中から照れるのも忘れて感想を述べるアリサ。

 彼女の場合、記憶を一度失うという特殊な過程があったから、なお激しく感じたのだろう。


「ぐ、具体的に何回くらいしたんですか……?」


「昨晩だけで休憩挟んで3回はしたかな」


「えっ、3回っ? 休憩込みで3回って……!」


 目を見開いたユリアが、そのままこちらを向く。


「会長」


「は、はい」


「わたしは今、猛烈な疎外感に襲われています」


「お、おう……」


「つまり、会長が取るべき行動は1つです」


 そう言って、突然上着を脱ぎ始めるユリア。


「アリサっちが3回なら、わたしは4回です」


 思わず乗り出すアリサ。


「ちょっと待ってユリ! まさか人の部屋でセッ※※するつもり!?」


「当然です、貴女だけ抜け駆けなんて許すはずないでしょう。会長はわたしともセッ※※する義務があります」


「セッ※※は良いけどちゃんと自分の部屋でやってよ! ここわたしの部屋だよ!?」


「普段わたしの部屋で勝手に飲み食いする貴女に、拒否権などありません。ベッド借りますよ」


 NGワードを平気で連呼する美少女たちを前に、もはや俺は無力だった。

 あぁ……これアレか、彼女に逆らえない彼氏っつーポジションか。


 このまま修羅場一直線だと思った矢先、ストップは唐突に掛かってきた。


「お?」


 玄関の方から、呼び鈴が鳴らされたのだ。

 こんな年明けの早朝、しかもアリサの部屋に客人など妙以外に無い。


 チャンスとばかりにリビングを抜け出し、俺は覗き穴に目を通して––––


「ッ!」


 硬直した。

 扉の前には、アサルトライフルで完全武装した迷彩服の兵士たちと。


「明けましておめでとう、イージスフォードくん」


 王国駐在武官にして元勇者––––、ジーク・ラインメタル大佐が立っていた。


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