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第431話・新年の朝

 

 カーテンから朝日が差し込む。

 俗に言う朝チュンというヤツだ。


 新年初めての朝は、アリサの部屋で迎えることとなった。


「…………」


 乱れたベッドの上、俺は横で寝息を立てるアリサを見やった。

 穏やかな顔で、横を向いている……。


 未だに実感なんて湧かないが、


「俺、こいつと“さらに一歩進んだ”関係になったんだよな」


 いつかは通るかも知れない道だった。

 けど未だに信じられない。なんというか、アリサの裸体ってちゃんと存在したんだなという感想が湧く。


「あーっ……、思いっきりやっちまった」


 上半身を起こし、頭を抱えた。


 正直困惑している。

 行為自体は緊張からそこまで快楽を感じるものでは無かったが、その時のアリサの声が耳を離れない。


 俺は全力で愛をぶつけた。

 それをずっと待っていた彼女は、かなり派手に声を出して快楽に溺れた。


 それこそ、防音魔法が無ければ2、3部屋貫通してアリサの声が響いていただろう。

 言われた通りに存在を身体へ刻み込み、もう俺以外の男とは触れ合えないくらい徹底してやった。


 今隣で寝息を立てているのも、自然に寝たのではない。

 彼女の幸福感が限界まで高まり、叫びすぎたあまりに体力を使い切って気絶してしまったのだ。


「……とりあえず起こすか」


 ユサユサと揺さぶり、気持ちよさそうな寝顔のアリサを起こす。


「んっ……?」


 目をゆっくり開けたアリサは、布団を掴みながら起き上がった。

 そして俺を見るや、ニヒッと笑い抱きついて来た。


「うおっ」


 当然と言えば当然だが、彼女は今全裸である。

 でも恥ずかしさは感じない。

 俺はアリサと1つになった後だ、もうこんなことで動揺することはなかった。


「おはよう、アルスくん」


「おはよう、ちゃんと覚えててくれて何よりだ」


「忘れられるわけないじゃん、あんな激しく愛し合ったらさ。おかげでバリバリ覚えてる。覚えていられる」


「なら良かった」


 銀髪を撫でると、ネコみたいに頬を擦り付けて甘えてくる。

 異常に可愛い過ぎる光景で、昨晩行ったばかりなのにまた“愛”が込み上げて来た。


 ってかこいつ、昨日の情緒不安定さが嘘のように消えてるな。

 まるで朝日のごとく晴れ渡った雰囲気で、もうこれなら心配する必要もないだろう。


「明けましておめでとう––––新しい日常が始まったね」


「あぁ、おめでとう。新年初めての朝だ、飯にしようぜ」


「うん、パン焼くよ。でもその前に……」


 顔をこちらに据えたアリサが、俺の両手を掴む。


「君の美味しい口から頂きたいかな。わたし、ショートケーキの苺は最初に食べる派なんだ」


「新年からとことん大胆になりやがって、ったく……好きにしろ。俺たちの間にもう遠慮なんていらねえよ」


「ニシシ、じゃあ遠慮なく……」


 端正な顔が近づく。

 暖かい吐息が感じられるまで、互いの距離が近づいて––––


 ––––ガチャッ––––


 玄関の鍵が、唐突に外から開けられた。


「はっ?」


「え……?」


 硬直した俺たちの耳へ、久しぶりに聞く声が届いた。


「アリサっちー、もう起きてますよね〜? お土産持って来ましたよ」


「「ッ!!!?」」


 生徒会副会長––––ユリアだった。

 なぜだ、確かあいつは3日までファンタジアに滞在している予定じゃ。


 いや、今はそんなことどうでも良い!!


「おいアリサ! 服着ろ! 服!! さすがにこの状況はヤバい!!」


「あっ、うん! っちょ、短パンどこ!?」


「布団の下だろ! お前脱いでそのまま蹴飛ばしてたぞ!」


 足音が近づく。

 部屋の間取りは寮全体で同じ、つまり……玄関からリビングまでは10メートルも無い。


「なんですかアリサっち、起きてるなら返事をしてくださ––––」


 扉を開けたユリアが、ベッドの上に座る上半身半裸の俺と全裸のアリサを見た。

 空気が、大気が、全てが一瞬で硬直する。


「…………………………」


 彼女の持っていたファンタジア土産が、絨毯の上に落ちた。


「いや、ユリ……これは」


「よっ、よぉ……」


 たっぷり30秒は経った頃だろう。

 エメラルドグリーンの碧眼から、ハイライトを消したユリアが呟く。


「Was bedeutet das?」


 ユリアが初めて、俺たちの前で母国語を喋った瞬間だった。


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