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第424話・大怪盗VS民間警備会社

 

「正義のスーパー大怪盗だと? ふざけてんのか! 自分で言う台詞じゃねえだろ」


「わっかんないわねぇ、これだからセンスの無い男は……つい自分で言ってしまうほど––––」


 重い重機関銃を下に向けたイリアは、ニッと笑った。


「凄いということよ」


 けたたましい射撃音が倉庫内を飛び越え、港湾区画全体に轟いた。

 ぶっ飛んだ台詞に呆気を取られた民間警備会社は、発砲が一歩遅れ先制攻撃を許してしまう。


 イリアが空中から撃っているのは、マキシムと呼ばれるアルト・ストラトス産の水冷式重機関銃。

 発砲により加熱した銃身を、真っ黒な水の入ったタンクで覆うことにより圧倒的な継続射撃能力を有する特徴を持った、強力な制圧火器だ。


「くそっ、がぁ!?」


「カバーだ! 遮蔽物にカバーを取れ!!」


 途切れることのない弾幕が、次々に民間警備会社社員たちを襲った。


 これは本来人間が1人で運用することを想定していない銃だが、イリアのステータスをもってすれば容易に取り回せる。

 加えて––––


「このバカみてぇな制圧射撃……、どうなってんだ」


 目の前では壁が引き裂かれ、木箱が連続で粉砕されていく。


 コンテナの裏に隠れたダニエルは、思わず舌打ちしていた。

 それもそうだろう、通常の機関銃ではどう頑張っても200発が連続射撃の限界だ。


 しかしイリアは、既に500発を超える銃撃を行っていた。

 狭い倉庫で頭上からこれだけ撃たれれば、いくら人数で勝っていても意味がない。


 銃を下ろしたダニエルは、他の社員が撃たれている隙にほんの一瞬だけ顔を出した。

 そしてすぐに引っ込め、また舌打ちする。


「ふざけた怪盗め……! そう言うことかよ」


 ダニエルが目撃したのは、先程の台詞並みにぶっ飛んだイリアの射撃スタイルだった。


 普通なら横のボックスから給弾するマキシム重機関銃が、弾薬を結合させたベルトリンクによって連結されており、さらにそのベルトは“マントの中”へ伸びていたのだ。


「異次元空間へ繋がるマントから、尋常じゃない量の弾薬を銃へ送り続けてやがる……! チート野郎が!!」


 反撃を試みる『チューリッヒ・ディフェンス』だが、空中を自在に機動しながら機銃掃射を行うイリアには手も足も出ない。


 遮蔽物から出た瞬間、または薄いコンテナごと撃ち抜かれてドンドン数を減らしていった。

 射撃数は既に1000発を超えており、もしこれが空冷式の機関銃であったならとっくに銃身が壊れている頃だ。


「なるほど……、そのための水冷式か。合理的な怪盗だ」


 コンテナの角から、銃だけ出してフルオートで制圧射撃。

 あっという間に空になったマガジンを外しながら、ダニエルは怪盗のセンスを褒める。


「空冷式じゃいくら頑張っても200発で銃身がダメになる、だがあの女は敢えてクソ重く古い水冷式を選び、俺たちを相手に火力で圧倒してやがる」


 ポーチから出したスチール製30連マガジンを、銃へガチっと差し込む。

 コッキングレバーを引いたダニエルは、即座に行動を起こした。


「そらっ!」


 放り投げた物体から、勢いよく煙が噴射される。

 いわゆるスモークグレネードと呼ばれる物で、ダニエルに続いて他の社員も投擲。


 ほんの僅かな時間で、倉庫内に濃い煙が充満した。

 永遠続いていた弾幕が途切れる。


「今だ!! 全員––––撃ちまくれ!!」


 イリアの射撃と入れ替わるように、民間警備会社側が射撃を開始した。

 セミオートでの発砲で時間を稼ぎ、生き残った社員たちが順番に倉庫外へ出ていく。


「フェイカーを置いていくのは遺憾だが……、もうそんなこと言ってられねえ。制圧射撃を行いつつ後退! 3番タンカーへ向かえ!!」


 AKS-47を撃ちながら、ダニエルは最後に地獄と化した倉庫から脱出。

 仲間15人と共に、無事タンカーへ辿り着いた。


 シンと静まり返った倉庫では、イリアに銃撃された社員たちが呻いていた。

 スモークの晴れた床に、血は一滴も流れていない。


「部下を置いて逃げるなんて、これだから傭兵は信用なりませんね」


 近くの積み上がったコンテナに、大怪盗イリアは悠々と座っていた。

 銃に繋がる弾薬は、通常のFMJではなくアルスのお気に入り弾薬。


「今倒れてる人たち〜、痛いだけで死にませんからご安心を〜」


 殺害を目的としない、非殺傷フランジブル弾だった。

 イリアはミニタブを起動すると、床に散らばったフェイカーの前に降り立つ。


「生け取り多数とフェイカー確保、これでこっちは目的達成。後は任せましたよ––––近衛総連隊長」


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