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第420話・滅竜王の鎧

 

「よく頑張ったなアリサ、多分……まだ俺が誰だとかそういうのは思い出し切れてないと思うけど、ひとまず伝わったよ」


 背後で呆然と立つアリサに、俺はぎこちなく喋りかけた。

 彼女を襲った悲劇は想像だに難くなく、こっちも言葉を選ばせられてしまう。


 次いで、勇者から距離を取った大天使に視線を向けた。


「アンタが敵か味方か、今は(わき)に置いておく。ひとまず情報の共有とアリサの保護––––感謝する」


 勇者アベルトを倒し、“事”を済ました俺の脳内にこの大天使は直接情報を送り込んできたのだ。

 内容は現在アーシャと交戦中である旨と、アリサから俺に関する記憶がほぼ欠落したこと。


 だが、向かおうにもなぜか大天使東風は居場所を教えては来なかった。

 最初こそ少しイラついたが、今ならその意味もわかる。


「試したろ。他でも無い、アリサに俺を呼ばせるのが……アンタの目的だったんだな。東風」


「さすが生徒会長、察しが良い男はモテるって本当だね」


「……世話を掛けたな、今度礼に伺うよ」


「君が引き続きアリサちゃん目当てで店に来てくれるだけで、僕は十分だ」


「恩に切る……じゃあここからは」


 (まなこ)の先を、忌々しげにこちらを睨む勇者へ据えた。


「俺が相手だ、真なる勇者。アーシャ・イリインスキー」


 轟々しいオーラに包まれたアーシャは、両手に光の剣を錬成した。

 とんでもない神力の密度だ……、アレで斬られたら大地が裂けるだろう。


「……おかしいわね、アンタはアベルトと戦って、とっくに魔力切れのはずなのに」


「おかしいも何も、現に今の俺は魔力で満ち溢れてるぜ? なんなら––––探ってみろよ」


 動くよりも疑問の解消を優先したか、アーシャから『魔力探知ソナー』が勢いよく飛んできた。

 俺は頬を吊り上げると、ソナーが触れた瞬間に数十倍のソナー返しをしてやった。


 潜水艦で言うところの、アクティブ・ピンガーのようなものだ。

 僅かに仰け反ったアーシャが、怒りに身を震わせる。


「あり得ない……! なんでアンタから、“3人分の魔力”を感じるのよ」


 それが答えだった。

 アベルト戦直後に俺が行ったのは、ミライとカレンから残った魔力全てを貰う事。


 これにより、俺は失った魔力をほぼ全快した。

 まぁ……。


「カレンの“初めて“を奪っちまったのは、マスターにガッツリ謝罪案件だけどな」


 顔を青くする俺の横で、東風がヒュウと口を鳴らす。


「なるほど、キスしたんだね」


「人が遠回しな表現したのに、直球で言いやがるなこの大天使は……」


 とにかく、2人から貰った魔力を使ってここまで飛んで来たのだ。

 つまり––––


「お前ら天界的に言えば、俺は魔王で悪の権化なんだろうが……」


 俺は全神経を湖の水面のごとく落ち着かせ、極限までリラックスさせた。


「ハッキリした善悪なんて、所詮フィクションでしか成立しない。お前は妹を取り返すつもりだろうが、想いならこっちも負けてない––––いや!」


 俺の狙いに気づいたのか、東風が自分とアリサに防御魔法をすぐさま展開した。

 リラックスし切った身体を目覚めさせ、魔力を一気に爆発させる。


「俺の恋人は––––相手がたとえ実の姉だろうが、絶対に渡さん!」


 雨雲に大穴を開けて、巨大な雷が俺目掛けて落下した。

 爆風が森を薙ぎ倒し、発生した閃光が周囲を真っ白に染め上げる。


「教えてやるよ、アリサは狂ったお前でも天界でもなく。正真正銘俺のものだってな。こいつはいつか––––必ず俺をぶん殴れる人間だからだ!」」


 蒼色の焔と、黄金のスパークが走り回った。

 やがて現れた俺の姿を見て、東風は汗を、アーシャは強張った顔を見せる。


「血界魔装––––『滅竜王の”鎧“』!!」


 覚醒した2体の竜のチカラを纏い、全身に白色の紋様を走らせた姿を晒す。

 それは、対半女神戦より大幅にパワーアップした、真なる血界魔装だった。


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