表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

419/497

第419話・忘れてしまう言葉ではなく、愛情は拳で!

 

「これは、ミニットマンの仕業かな……? こんな覚醒展開、側から見たらこっちが悪者みたいで嫌だね」


 東風の前に現れたのは、冗談のような光景だった。

 起き上がった瀕死の勇者は、“なんらかの干渉”を受けて潜在能力の全てを解放した。


 溢れ出た神力が黄金のオーラとなり、大気摩擦でスパークを発生させている。

 強さの次元も、先程とは比べ物にならなかった。


「天使を騙る悪魔め……。アリサを返しなさい」


「ッ!!」


 穿たれたのは、神速の斬撃。

 反射で後方へ飛び退いた東風は、まだ動けそうにないアリサを横へ押し退けた。


「うっひょ!」


 2人の隙間をギリギリで通り抜けた閃光は、堅牢な岩山へ命中。

 巨大な質量が、木っ端微塵に砕かれた。


 それに留まらず、一直線に森を裂いて地平線まで突き抜けていく。


「これが真の勇者ねぇ、恐ろしい恐ろしい」


 翼を広げ、東風は急加速しながらアーシャへ迫った。


「まぁ僕は所詮繋ぎ役なんでね、怪我しない程度にやり合おうか」


 東風は自分のスピードを最大限に活用し、アーシャの攻撃をかわしながら攻撃を放った。


「よっ」


 繰り出したのは、念動力による莫大な衝撃波。

 彼は、アーシャが力を溜め込んでいる時に攻撃することで、相手の攻撃を中断させて防戦に徹する事にする。


 また、東風は彼女の攻撃を一部でも無駄にすることで、体力も消耗させようと目論んでいた。

 アーシャの攻撃をかわしながら、自分の攻撃を的確に当てることで、上位存在寸前となった勇者を疲弊させることが目的だった。


「アリサちゃんっ」


 狂戦士と化したアーシャと戦いながら、東風は叫ぶ。


「君が本当に彼のことを全部忘れてしまったのなら、力を失うほど弱体化しないんじゃないかな?」


 東風は相手の弱点を探りながら、攻撃のタイミングをジックリ見極めた。

 的確に反撃するも、ダメージの感触は無い。


 しかし、大天使は構わず続けた。


「彼を––––竜王級を、記憶だけじゃなく魂で愛しているからこそ。記憶を失ってなお虚無感があるんだと思うよ!」


「黙れ悪魔!! アリサをたぶらかすな!!」


 上空へ跳んだアーシャが、両手に持った光を地面へ打ちつけた。

 爆風で、周囲もろともを纏めて吹っ飛ばす。


 当然、余波に巻き込まれてアリサも土の上を転がった。


「ゥッ……」


 泥だらけの体を起こしながら、アリサは頭を抑えた。

 東風の言うことは最もであり、真理と言って良い。

 本当に存在そのものを忘れてしまったのなら、悲しむことすらできないのだから。


「誰だ……君は」


 今のアリサは、動揺で力の制御がほぼできていない状態。

 逆に言えば、動揺する原因をまだどこかで覚えているのだ。


「わたしは、君を……。どんな存在だと認識していたんだ」


 おぼろげながら、ゆっくりと影が浮かんだ。

 それは水面に映る月のように、周囲の騒がしさが邪魔となってハッキリ見えない。


 闇雲に思い出すのでは不足だ、何か……何か彼の証拠を。

 彼を特別だと想っていた証拠を––––


「あっ……」


 目が丸くなる。


 視界に入ったのは、擦り傷の付いた自分の拳。

 そうだ、わたしには……追いかけるべき、越えるべき目標がいた。


「スゥッ……」


 深く呼吸する。


 いつだって、最初に会った時から何も変わらない……。

 彼と最初に触れ合ったのは、この“拳”だ。

 この手で彼を、愛し過ぎるあの人をぶん殴ることが––––


「わたしの目標……! わたしの願い!」


 それが誰かはハッキリしない。

 だが自分は……アリサ・イリインスキーという人間は、すぐに忘れてしまう言葉ではなく。


「愛情は……口じゃなく!!」


 拳で語る! それこそ––––


「わたしの信じる、あの人との愛だ!!」


 アリサの全身から、ありったけの魔力が放出された。

 紫色の波がドーム状に広がり、空の彼方へと消えていく。

 同時に、東風と交戦するアーシャにも動きがあった。


 《アーシャ! もう東風はいい! 早く魔壊竜を連れてそこを離れなさい!!》


 大天使ミニットマンの慌ただしい声が、勇者の脳内にやかましく響いた。

 東風と距離を取りながら、地面を削ってブレーキを掛けたアーシャは不審がる。


「ミニットマン様! この悪魔は放っておけません、今こそあなたから頂いた力で神命を––––」


 《そんなのもういい! 早く魔壊竜を連れ帰りなさい!! 急がないとヤツが来––––》


 ミニットマンが言い終わる前に、“彼”はアリサの眼前へ着地していた。

 地面が一瞬だけ揺れた後、全員の視線が1人へ向けられた。


 それは、想いに応えるべくやって来た竜の王。


「ありがとうなアリサ、必死で俺のこと思い出してくれて……。必死で俺のこと呼んでくれて」


 立ち上がった灰髪の青年は、アーシャを一瞥して一言呟いた。


「俺の家族から記憶を()った代償は重いぜ、勇者さん」


 伝説にして最強。

 竜王級アルス・イージスフォードから、東風も汗をかくほどの大魔力が放出された。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ