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第417話・勇者アーシャVS大天使東風

 

「だ、大天使様が……なぜここに!? しかもミニットマン様以外に天使がいたなんて」


 目的の妨害をしてきたのが、まさか自身の最も信仰する存在だったとは当然想定外。

 今度はアーシャの方が、精神的動揺を受けていた。


「君、アリサちゃんから能力を奪おうとしたでしょ? それをされると結構困るんだよねぇ」


 飄々としながらも、東風は一切の隙を見せることなく地上へ降りた。

 その頭上には光の輪っかが浮かび、神々しい翼が広げられる。


「東風……、店長っ……」


 意識を朦朧とさせたアリサが、自分の前に立った上司を見て困惑する。

 それに対し、東風はあくまで雰囲気を崩さないで右手を上げた。


「アリサちゃんは休んでていいよぉ、僕は所詮場繋ぎ的な役だし。それに––––」


 全身から莫大な神力を放ちながら、東風は顔だけ振り向く。

 風が吹き荒び、樹木が一斉に傾いた。


「ウチのメイド喫茶は個性が売りなんだ、せっかく外見が変化するという王道属性を持った従業員がいるのに、みすみす失うなど考えられないよ」


 ニッコリ笑った東風は、次の瞬間にはもう消えていた。

 否、変身が解けたアリサでは見えない速度で、警戒するアーシャへ肉薄したのだ。


「ごめんねー、ちょっと痛いよ」


 爆発が雨粒の無い空間を生んだ。

 東風が放った掌底突きが、前方方向へ指向性を持った衝撃波と共に勇者を紙のように吹っ飛ばした。


「かっ……!!」


 アーシャは地面を激しく転がり、立ち上がった先で思わず吐息を漏らした。

 なぜ大天使がアリサに味方するのか、全く見当もつかない。


 しかし、彼女は主人のために屈するつもりなどなかった。

 再び『セイクリッド・エクスカリバー』を錬成すると、殺意と共に神力を上げた。


「私はミニットマン様の意思にのみ従う、いくら貴方が大天使だとしても––––阻止されるわけにはいかないッ」


 ひとたび振られた剣から、猛烈な光の波が放たれる。

 アリサ相手には封じられていた攻撃魔法だが、勇者となった彼女は人智を超えた存在だ。


 この攻撃も、並の魔人級魔導士では到底受けきれない威力を誇っていた。


「良いね、その一途な姿勢。ミニットマンは従順な下僕を見つけたようで何よりだよ」


 しかし、東風の動きはあまりにも速く、彼女の攻撃は全てかわされてしまった。


 もう少し出力を上げないと、勝てないかもしれない……!


 アーシャはそう思いながら、自分自身へ言い聞かせるように、気を引き締めた。

 そして再び攻撃を繰り出す。


 今度は接近しての連撃。

 2人の間を落ちる雨粒が、顔の前へ流れる。


「さすがはフルスペックの勇者だ、魔王––––竜王級を殺すために生まれたのも納得できるな」


 アーシャも十分人外クラスの動きだったが、東風もまた人間を超越した上位存在だということを忘れてはならない。


「はああぁああッ!!!」


 それでも、アーシャは諦めなかった。

 動きを常に先読みして、矢継ぎ早に大天使へ剣先を近づけていった。


「私は、負けない……!」


 彼女はありったけの力を振り絞り、全身から金色の炎を巻き起こした。

 こんなふざけたヤツは、天使を騙る悪魔に違いない。


 なればこそ、勇者たる自分がミニットマン様の神命に応えないでなんとする!


「くたばれ!!」


 猛炎を引っ張った剣技が、東風の首を僅かの時間だが捉えた。

 それは、決定的な致命打となる。


「あっ」


 眩い刃は呆気なく、東風の頭と胴体を切り離した。

 途端に訪れた静寂は、勝利の感触。

 やった……。やり遂げた。


 歓喜の感情が込み上げてくる。


 おぞましい天使の姿をした悪魔を、自分は見事葬ったのだ。

 これで邪魔者は消えた。


 改めて、満身創痍のアリサへ振り向いた時––––


「ダメだよ〜、勝ったと思った瞬間が一番危ないんだから」


 背筋に氷が当てられたようだった。

 見れば、切断した東風の身体が煙となって消える。


「残念でした、さっきまで君が必死になって戦ってたのは僕の“分身”。強かったでしょ?」


 背中にピッタリと、手のひらが当てられた。


「でも逆に言えば、今の君では僕の分身相手が精一杯ってことだね。そんじゃまっ」


 背中に熱が伝わった。


「死んでくれるかな?」


 東風が笑顔で放ったのは、勇者をしても無事でいられない物。

 手のひらに一点集中させた圧力を、神力によって何乗倍にも増幅。


 目標へ発射する天界一等技術––––『収束圧縮衝撃砲』だった。


「ガッ……ァッ!!?」


 アーシャの意識は、そこで吹っ飛んで消えた。


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