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第415話・勇者VS魔壊竜

 

 真なる血界魔装。

 これは、先日アリサが文字通り死ぬ思いをして行った大天使との修行から得た、最強にして究極の変身だった。


「……っ、これがマジックブレイカーの終着点。本当に大したものね」


 アリサは目の前の姉を睨みつけた。

 相手は勇者という伝説上の存在で、今の自分の力を試すにはもってこいだった。


「行くよ、お姉ちゃん」


 彼女の問いに、アーシャは笑って頷いた。

 次の瞬間、信じられない跳躍力でアリサは肉薄する。

 桁違いのスピードから繰り出される打撃は、万全の体勢で待ち構えていたアーシャから一切の余裕を剥ぎ取った。


「ガァッ!?」


 頬を思い切りぶん殴られた勇者は、痛覚が無いにも関わらず顔を歪めた。

 次いで穿たれた2撃目をギリギリでかわし、後方へすぐに飛び退く。


「『飛翔魔法(メテオール)』!!」


 完全に想定外の威力。


 一度距離を取ろうと、アーシャは空中へ逃れた。

 事前の情報では、アリサに空を飛ぶ能力は無かったはず。

 ここからじっくり攻めようと、愚行した刹那。


 ––––ギィンッ––––!!!


 アリサの見開かれた瞳から、甲高い音と共に衝撃波が発射される。

 大気を走ってきたそれがアーシャに触れると、


「えっ!?」


 飛翔魔法(メテオール)が強制的に剥がされた。

 能力を失い、無防備に落下する姉の眼前にアリサは跳んでいた。


「無駄だよ、今のわたしに魔法は通じない」


 列車が衝突したような衝撃が、アーシャの脇腹を射抜いた。

 華奢な脚から打たれたハイキックは、とんでもない威力を伴って襲う。


 森が大きく揺れ、激突した地面が液状化した。

 これだけでは終わらない。


 急降下したアリサは、木をカタパルトにして一気に突進。

 折り重なった5つの防御魔法を砕き、全身で体当たりした。


「ッ……!!」


「まだまだァッ!!」


 低空で吹っ飛んだアーシャに追いつき、2撃3撃と五月雨式に拳を命中させた。

 広大な森を貫き、直線上にあった岩山が連続して崩壊する。


 そのまま空中に蹴り上げ、真上から踵落としを炸裂させた。

 バックリ空いたクレーターの中心部で、アーシャはフラフラと立ち上がる。


「すごいわね、あなたの力」


 アーシャは微笑みながら言った。

 その笑みが、アリサには嫌な予感を呼び起こした。


「何が面白いの? 痛みが無くなると絶望が可笑しく思えちゃう?」


「そんなに攻撃的にならなくても、私は」


 アーシャは言葉を切り、アリサに向かって地を蹴った。

 相手の動きは極めて速く、彼女はその瞬間を迎え撃つために魔力を引き上げた。


 紫色のオーラを背負い、文字通り魔壊竜となったアリサは、アーシャに向かって負けじと襲い掛かる。


 二人の衝突は激しく、そのたびに周囲の木々が折れ、地面が破壊された。

 アリサは激しい攻撃を仕掛けるが、アーシャもそれをかわし、反撃を繰り出す。


「『セイクリッド・エクスカリバー』!!」


 光が鋭利な刃物へ具現化。


 アーシャの光剣から放たれた攻撃が、アリサに向かって吠えた。

 しかし、真なる血界魔装の力はそれを簡単に防ぐ。


 アーシャの攻撃を次々にかわし、ターン制のように反撃を繰り出す。

 二人の戦いは激しく、周囲の空気が荒れ狂っていた。


「ちっ」


 アリサはまだ食らいついて来る相手の力に驚きながらも、アーシャと戦いを続けた。

 不気味だった……彼女は自分が成長していることを実感し、やられてもそれが喜びであるかのように剣を振るうのだ。


 その剣が、たとえアリサに当たらずとも。


「無駄だよ! お姉ちゃんの魔法はもう通じない!」


 ––––ギィンッ––––!!!


 再び放たれる魔壊の衝撃波。

 今度は光の剣だけでなく、アーシャが纏っていた神力の一部まで引き剥がした。


「だぁらッ!!」


 ノーガードの状態で、アリサの拳が姉を襲う。

 木に叩きつけられたアーシャだが、やはりユラユラと起き上がる。


 直感で察していた。

 アーシャはまだ何かを隠している。


 彼女が手の内を晒した時、自分はどうなってしまうのだろうか。

 アリサはその瞬間を恐れていた。


 なら––––


「これで決める! 滅軍戦技––––」


 最大最強の技で、再起不能にしてやるまで!


「『クラーク・イズ––––』ッ!?」


 魔力を集めたと同時、アリサを形容し難い頭痛が襲った。

 ほんの数秒だったが、隙を晒したくないので一旦距離を取る。


 それを見て、アーシャはまた笑っていた。


「確かに……一対一なら、今のアリサの方がずっと強いわ。あなたは大好きな人のために、その竜の力を磨いたんでしょう?」


「だったら何さ……!」


 アーシャの瞳が、吸い込まれるような青色を輝かせる。


「その大好きな人って、誰?」


「は? 決まってるじゃん。そんなの––––」


 言おうとして、口が止まった……。

 脳が記憶を漁り、当然のように出そうとした顔は。


「だ、……れ?」


 ピースが散らばり、思い出せなかった。


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