第411話・超神力砲
真の血界魔装に進化したカレンの強さは凄まじく、溢れる業火でもって勇者と互角以上に渡り合っていた。
王都の冒険者ギルド密集区画は、あまりの戦闘の激しさに瞬く間に灰塵と帰していく。
「我が勇者の剣よ応えろ!! 輝き、悪の炎を消し去れッ!!」
カレンの猛攻を食らったアベルトが、地面を削りながらターン。豪快に剣を突き上げた。
ヤツの周囲に一瞬で無数の光剣が現れ、刃を空中の竜へ向けた。
「殲滅!!」
発射された剣は、音速で飛翔。
いくらか防いだが、さすがのカレンでもあの量と速度では被弾も免れない。
脇腹や腕を斬り裂かれ、“血”が飛び散る。
通常であればダメージで戦力はダウンするものだが、覚醒した血界魔装の恐ろしさはそんな常識をぶち壊してくることだった。
「いったッ……!! もぅ頭来た!! 繊細な女子の肌に斬撃とか絶対許さないんだから!!」
さらに激しく燃え上がる魔力。
出血によって、カレンの力はさらに数段跳ね上がった。
紋章が血を吸い込み、出力をドンドン増していく。
「オラァッ!!」
蒼色の髪をなびかせ、カレンは空中から踵落としを叩き込んだ。
「ぐぬぅッ……!!」
あまりのパワーで、地面が陥没する。
まさしく一進一退の攻防が続く中で、俺は呼吸を整えていた。
「『照準用魔法』––––展開」
視界に現れたのは、様々な情報を数字や文字で可視化したホログラフィック擬き。
風速、重力傾斜、湿度と温度等。
これは以前拾った古代帝国のアーティファクトである、魔導照準器を参考に開発した俺のオリジナル魔法。
非常に小さな魔力しか使わない低燃費で、今から撃つ技には必須だった。
「魔法念映クロスゲージ、オープン」
続いて視界に、丸型がいくつも重なったレティクルが現れる。
こちらは目の先数十ミリの所へ、直接魔法陣を浮かべて覗きながら使うものだ。
これにより、勘ではなくより直接的な照準が可能となる。
本来魔導士は、このような補助魔法に頼らずとも大体当てられる。
なので、この手のアシスト魔法はあるようで存在しなかった。
だが、俺はこの必要とされない技術を必要と認めた。
「神力充填……圧力70%」
金色の輝きが、伸ばした俺の手先へ集まっていく。
これから撃つのは、人間になど絶対許されない領域の技。
だからこそ、誤爆もミスもあり得ない。
確実に、より機械的なシークエンスを経て準備を整える。
「アルス兄さん!! こいつ、様子がさっきからおかしいんだけど!!」
見れば、勇者は攻撃をやめて防戦体勢に移っていた。
しかもただの防御ではない、アベルトを360度囲むように金色の膜が覆う。
「だぁらッ!!」
空中へ飛んだヤツへ、カレンが下から焔弾を命中させた。
爆煙が勇者を包むが、どうもおかしい。
『照準魔法』越しに見ると、煙の中で無傷の殻が浮かび上がった。
「貴様の血界魔装は確かに脅威だが、それもここまでだな」
晴れた矢先、アベルトは殻の中でほくそ笑む。
「僕の全神力を注いで、絶対防御陣を築いた。こちらからも攻撃はできないけど……君が失血する時間稼ぎには十分だろう」
「クソッ!!」
あまりの狡猾さに、悪態をつくカレン。
おそらく、あの殻は通常魔法をものともしない勇者特有のチート魔法。
あそこまで防御に振られては、滅軍戦技すら効かないだろう。
「逃げんな芋勇者ッ!! 正々堂々戦えッ!!」
「お断りする! フッ……ハハ、惨めだな蒼焔竜、せいぜいそこで己の無力さを噛み締めろ!」
笑うアベルトに釣られて、俺も笑みを隠せない。
まさかこうも、都合の良いことを相手からしてくれるとは。
「カレン! ミライ!! 俺の合図で目を瞑れ!! 下手したら失明するからな!」
「はっ!? ってかアルス兄さん何それ! そのエネルギー体、魔力じゃないよね!?」
「良いから!! よく時間を稼いでくれた! 後は俺に任せろ!!」
俺の叫び声に押されたカレンが、素直に剣を下ろした。
「……わかった、頼んだよ。アルス兄さん」
「あぁっ」
照準用レティクルを、宙に浮かぶ勇者へジックリと合わせていく。
「目標、敵勇者および絶対隔離防御シールド。セット20、45。誤差修正プラス2度」
緑色のレティクルが、アベルトを中心へ据えて真っ赤に光った。
「魔法念映クロスゲージ、明度20。神力臨界点まであと10秒……!」
「はっ! 何をする気かは知らんが……いくら竜王級でも今の僕には傷も付けれない。そもそも痛覚だって無いんだ、ちょっとやそっとじゃ僕には勝てない!」
豪語するアベルトは気づかない、自分が俺にとって最高のシチュエーションを提供しているなど。
この技の最大の弱点は、発射前の綿密な調整作業だからだ。
「神力充填率……120%! 臨界点突破まで5、4、3、2––––」
集まっていた神力が、重力崩壊を起こして特異点を形成する。
周囲の空間が歪み、光すら飲み込む次元の裂け目ができた。
「お前ら!! 目を瞑れ!!」
アシスト魔法により寸分の誤差なく命中が保証されたタイミングで、俺は最後に残っていた魔力を右腕へ集中運用。
ブルーを発動し、強制注入機として特異点を全力で殴り付けた。
「『超神力砲』––––発射ッ!!!」
何層もの次元が引き裂かれた。
発生した特異点からの次元放射エネルギーは、仰角を上に取りながらアベルトへ突っ込んでいく。
「はっ?」
捨て台詞も、不吉な言葉も遺すことなくアベルトはシールドごと蒸発した。
超々高密度エネルギーは、魔法結界に大穴を開けて上空へ消えていく。
後に残ったものは、プラズマ化した大気のみ。
遥か上空––––宇宙空間には、太陽にも似た火球が膨れ上がっていた。
ミライの意地で、なんとか結界自体の崩壊は免れた。
それでも、今のは本来出せる出力の僅か100分の1に過ぎない。
たかだかマンターゲット1人ならこれで十分と思ったが、それでも過剰威力には違いなかった。
やはり、手加減できない俺が迂闊に撃って良い技ではないな……。
これで、ファンタジアでの時と合わせて2回目の使用。
天界特一等技術––––『超神力砲』。
その気になれば巨大な島すら消し飛ばす、本当に恐ろしい戦略魔法だ。
「凄い……。あんなにタフだった勇者がたった一撃で……」
感嘆するカレンに、汗を拭いながら返す。
「俺1人の成果じゃない。お前が前線張ってくれたおかげだよカレン、ミライも結界の維持ありがとう」
屋根から降りた俺は、すぐさま次にやるべきことを思考していた。
「まだ終わってない、アイツよりずっとヤバい勇者が……まだ残っている」
俺は2人の覚醒した竜へ”ある頼み事“をした。
言葉を聞いたミライはすぐに同意し、カレンは顔を真っ赤に染めた。




