第407話・真なる蒼焔竜
飛び込んできた人影は、野獣のようにアベルトへ襲い掛かった。
「見ぃつけたァアアッ!!!」
冒険者カレン・ポーツマス渾身の蹴りは、助走の勢いを得ていたこともあり非常に強烈なものだった。
頬にめり込んだつま先を抉り、端正な顔を歪ませたヤツは盛大に吹っ飛ぶ。
そのままT字路の先で建物に衝突し、瓦礫を散らした。
「カレンちゃん……!? なんでここに?」
驚きを隠せないミライへ、カレンは親指をある方向へ向けた。
「さっきミライ姉が突っ込んだ建物、ウチの支部だもん。そりゃ支部長からわたしへ通報くらい来るわよ」
あぁ、そういうことか。
蹴り飛ばされたミライがぶっ壊したのは、幸か不幸かドラゴニアの支部。
そりゃこんな規模で戦闘してたら、ギルド長のカレンが呼ばれるのも当然。
展開していた広域ECMも、ミライの電撃で破壊されていたのだろう。
「でっ、いざ駆けつけてみたら……やっと見つけたってわけよ」
睨んだ先でアベルトが起き上がる。
身体を包む蒼焔を見て、彼女は鼻を鳴らした。
「人様の能力を勝手に使っておいて、ずいぶんヌルい戦い方してるわね……アイツ。全く扱え切れてないじゃないの」
今のカレンからは、先日までの暗さや迷いを一切感じない。
正真正銘、トップランカーとしてのあるべき姿へ戻っていた。
「飯食って少しは元気になったか?」
「当然よ、自分だけ引きこもってアルス兄さんたちに全部任せてたら、一生の恥で死ぬわ」
「別に任せてくれても良かったんだぞ?」
「フンッ、兄さんたちにだけ負担は掛けない。……掛けさせるもんか、だってわたしは––––」
気合い一閃。
カレンから膨大な魔力が放たれた。
「大英雄と竜王級の、妹なんだものッ!!!」
焔を失っても、カレンが元から持つ才能と強さは変わらない。
それを証明するほどの凄まじい覇気だった。
ならすべき事は決まったも同然、肩を叩いて正面を向く。
「良いぜカレン! 言っとくが遅れんじゃねぇぞ」
「はっ! アルス兄さんこそちゃんと付いて来なよ。あんな貰ってばっかのクソ勇者––––」
俺とカレンは、同時に地を蹴り踏み出した。
「「実力でぶっ飛ばしてやるッ!!」」
駆け出した俺たちを、ミライが即座に援護する。
左右を走った雷撃が、アベルトの退路を瞬く間に塞いだ。
「小癪なッ……! 忌々しい原罪の生き物め、これで勝ったつもりとはめでたい連中だ」
剣を握ったアベルトが、神力を刃へ一点集中させた。
輝きは焔へ変わり、業火が顕現される。
「滅軍戦技––––『ブルー・エクスプロージョン』ッ!!」
蒼色の爆発が、目の前に立ちはだかった。
俺はブルーの出力を最大まで上げると、カレンを飛び越えて焔へ突っ込んだ。
「バカめ、焼身自殺を選ぶか! 竜王級!」
「ッ……!!」
確かにものすごい威力だ。
ちょっとでも気を緩めれば、一瞬で丸焦げにされるだろう。
だがっ。
「偽物が贋作で––––、生意気にイキってんじゃねぇッ!!!」
纏っていたブルーのオーラを、俺は全身から放出した。
残り時間の全てを費やした行為は、まさしく超新星爆発のそれ。
極超短時間の放出は、滅軍戦技を真っ正面から薙ぎ払った。
「何っ!?」
勇者が怯む。
「今だ! カレン!!」
着地した俺の背を、走り込んできたカレンが踏み越えた。
目指す先はただ一点、奪われた本来の持ち主に帰属すべき能力!
「帰ってこい!! わたしの力ぁあッ!!」
寸前に放たれた剣撃が、カレンの首を掠める。
空中へ舞った血が地面へ落ちる前に、彼女はアベルトの持つフェイカーを掴み取っていた。
「来い!! 蒼焔竜ッ!! わたしがお前の––––真の主だ!!!」
信じられないことが起こった。
フェイカーを取り返そうとカレンへ斬りかかった勇者が、紙のように吹っ飛ばされたのだ。
原因は1つ。
カレン目掛けて、“蒼雷”が落ちて来たのだ。
眩い光が四散したと同時、極焔の火柱が上がる。
「––––教えてあげるわ、クソ勇者」
焔から現れたカレンを見て、俺とミライは高揚を抑えきれなかった。
瞳と髪は蒼色へ染まり、全身を同色の紋様とオーラが包む。
「どっちが外道で、どっちが本当のトップランカーかをね」
ここに来て初めて剣を抜いたカレンが、アベルトに鋭い切先と殺意を向けた。
これが……、王国冒険者ランキング1位の本当の姿。
「血界魔装––––『蒼焔竜の“鎧”』」




