表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

406/497

第406話・最悪の状況と最高のタイミング

 

 “蒼焔”がアベルトを包み込んだ。

 灼熱の業火が、周囲の建物を一気に火災で包み込んでいく。


「これ……、まさか!」


 一歩後ずさるミライ。

 さすがにこの展開を予想できなかった俺も、瞳に反射する焔を凝視せざるを得なかった。


 アレは……、あの能力は!


「野蛮人共め、光栄に思え––––とっておきを見せてやる。“血界魔装”!!」


 火災旋風が吹き荒れ、周囲の温度が急激に上がっていく。

 やがて蒼い焔を割って現れたのは、髪や剣先にまで火を迸らせた勇者にして、


 1体のドラゴンだった。


「『蒼焔竜の衣』!!!」


 俺とミライは槍のような視線を、眼前のアベルトへ向けた。


「アレは……カレンちゃんの能力! なんでアイツが持ってんのよ!!」


「答えなんて分かり切った話だ、ミライ」


 全身の魔力を高め、一気に臨界点まで持っていく。

 もはや躊躇も、余裕こいた戦い方もしていられない。

 俺は最大最強の変身、破壊の権化––––蒼き死星を輝かせた。


「『身体・魔法能力極限化(ブルー・ペルセウス)』!!!」


 変身の余波で、地面がヒビ割れ砕け散る。

 呼応するように、世界へ鐘の音が響き渡った。

 耳を破りそうな轟音は、俺が改めて抱いた覚悟の現れ。


「見つからなかった探し物が、のこのこ現れたんだ……! 絶対に取り返すぞ、ミライ!」


「ッ……! うん!」


 蒼色のオーラを纏いながら、俺はアベルトへ全力で殴り掛かった。

 振り抜かれた拳は、勇者の剣と衝突。


 激しい衝撃波が発生した。


「その血界魔装は……俺の妹が持ってたものだ、どんな手を使っても返してもらうぞ!」


「フンッ、戯けたことを。これは天より授かりし恩寵だ、貴様ら魔王を討ち滅ぼすために頂いたのだ!!」


 空間を面制圧する勢いで放たれた剣技を、俺は全てオーラを纏った腕で防ぎ切る。


「罪なき少女から奪った能力を恩寵だと? 物語の魔王より魔王してんのはそっちだろうが、そんなふざけた言動––––」


 空中で回転した俺は、斬撃に近い鋭さの蹴りを打った。


「天が認めても俺が認めんッ!!」


 間一髪でガードされるも、アベルトは威力を殺しきれず後方へ吹っ飛んだ。

 ブルーの変身時間はどう頑張っても“2分半”が限界、勝負は一瞬で決めねばならない!


「ミライ!!」


「ガッテン!!」


 横合いから走ってきた彼女の腕を掴むと、その場で再びの大回転。

 竜王級の圧倒的なパワーで、思い切りぶん投げた。


「滅軍戦技––––!!」


 先ほどよりも遥かに上がったスピードで、ミライは金眼の勇者へ突っ込んだ。


「『雷轟撃突弾』ッ!!!」


 刃状になった杖の先端が、アベルトの剣と激しくぶつかり合う。

 雷を纏ったミライは、さらに魔力を全開まで引き上げた。


「滅軍戦技!!」


「ッ!?」


 杖が神々しく輝く。

 放たれるは、ゼロ距離からの超電撃。

 出血で強化され、出力に至ってはもはや計測不能の奥義。


「『天界雷轟』ッ!!!」


 アベルトを怒り狂う雷が襲った。

 いくら痛覚を消していても、無視できるものではない。

 俺はダッシュすると、勇者目掛けてジャンプした。


 ミライを飛び越える形で、そのままアベルトの顔面を掴んで地面に叩きつける。

 後は『フェイカー』を奪えば……!


「ッ!!」


 伸ばした手は、しかし途中で止まる。

 俺は慌てて勇者から離れると、ミライの隣まで瞬時に後退した。


「ちょっと! どうしたのよアルス!?」


 完全に勝ちのはずだった。

 困惑した様子のミライへ、俺は失念していた過去の記憶を喉から押し出す。


「忘れていた……、俺はラントの、ミリアの、剣聖グリードの最期も見たってのに」


 これまで戦ったフェイカー使用者は、例外なく1つの死因でもって死亡している。

 ヤツのフェイカーが不気味に光った瞬間、俺は最悪の事実を思い出したのだ。


「『フェイカー』は鹵獲防止機能として、その全てに“自爆装置”が付いている……。いまヤツを倒そうとしたり、本来の持ち主じゃない俺たちが奪おうとすれば––––」


 立ち上がったアベルトが、四散していた蒼焔を身体中へ走らせる。


「フェイカーはアイツごと爆発して、未来永劫カレンの能力は失われるんだ……!」


 俺の言葉に、アベルトが挑発じみた顔で笑う。


「察しが良くて助かりましたよ、竜王級。最初から君たちが完勝できるシナリオなんて無かったんです。悪は討たれる……この必然は神の意向によって達成されるのですよ」


 全くとことんまでふざけている。

 殺そうにも、能力を人質に取られている現状では殺せない。

 手加減すれば、勇者と蒼焔竜の力でこっちが逆に殺される。


 ブルーの変身時間も迫る中、俺は気づく。


「誰かが……こっちに来ている?」


 魔法結界内を、尋常ではないスピードでこちらに向かってきている者がいた。

 そいつはあっという間に数ブロック突き抜けると、アベルトの左側にあたる大通りへ飛び出た。


「さぁチェックメイトだ、竜王級に雷轟竜。この勇者アベルトが神の地上代行者として魔王を––––」


 ヤツが言えたのはそこまでだった。

 大通りを猛スピードで走ってきた人間は、踏み台にした車がひしゃげる勢いでジャンプ。


 俺たちの視界へ現れる。


「見ぃつけたァアアッッ!!!!」


 セリフの途中だったアベルトの頬を蹴り飛ばしたのは、亜麻色の髪を伸ばした14歳の少女。

 王国冒険者ランキングのトップにして、蒼焔の真の持ち主––––


「カレン……!」


 今この場で、最も必要とされる人間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ