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第404話・なぜ1人だけだと決めつけてしまった

 

 俺の隣でバチバチとスパークを漂わせたミライが、若干異議ありという顔で見てくる。


「ちょいちょい付け狙うって……、その言い分だとわたしがアルスのストーカーみたいなんですけど」


「間違ってないだろ? 今日も俺を奇襲しようとずっと後ろから覗いてたくせに。あんだけ凝視されて気づかないわけないだろ」


「クッソ……バレてたか」


 今日は外出した直後から、殺意マシマシのミライが俺の後を付けていた。

 もし俺が決定的な隙を晒したら、即座に変身––––襲い掛かるために。


「彼女なんだし別に良いじゃん、それより……さっき通話してたヤツ誰よ」


「さぁな、そのうち分かるよ」


 俺は『魔法能力強化(ペルセウス)』の出力を上げると、何重にも高速化魔法を掛けた。


「まずは眼前の狂信者を相手するのが先だ」


「フンっ……、竜王級に雷轟竜。君らのデータは既に取っている、いくら足掻いても僕には勝てませんよ」


「ずいぶん自信があるんだな、そのデータとやらはいつ取ったのかな?」


「ルールブレイカー壊滅時点で十分だ、それ以後のデータなど最初から必要ない」


 なるほど、どうりで余裕をぶっこいていられるわけだ。

 こいつは王城で行われた、アイリとの死闘も俺の新技も知らない。

 つまり––––


「誤算だったなアベルト、俺たち生徒会は厄介なトラブルに巻き込まれる定めにある。よく実感しろ、データとの違いをな」


 俺の横から、予備動作無しでミライが消える。

 全力の俺に匹敵するスピードを出したミライが、雷轟と共にハイキックをアベルトへ叩き込んでいた。


「ガフッ!?」


 吹っ飛んだ騎士はすぐさま体勢を立て直すと、周囲を見渡す。

 ミライはやはり超高速で機動しており、辺りを電気が走り回っていた。


「お前のデータはルールブレイカー決戦時点、つまりミライの血界魔装がまだ衣だった時期だ。けど今は違う」


 アベルトの振った剣が空振り、代わりにミライの打撃が何発も全周からヒットした。


「真なる血界魔装は、衣と比較になんてならない。お前のデータは俺たちに対して、もう無効武力なんだよ」


 高速化魔法(ミーティア)で一気に肉薄した俺は、溜めに溜めた右手のエネルギーをアベルトの顔面へ押し付けた。


「『エクステンデッド・エクスプロージョン』!」


 正面に指向性を持った大爆発が、アベルトを弾丸のように吹っ飛ばした。

 家屋を何軒も貫き、冒険者ギルドの密集した区画まで瓦礫を撒き散らす。


 攻撃を終えたミライが、俺の正面へ姿を現した。


「お前をサッサと片付けて、俺はアリサの所にいかなきゃならん。まだ戦う意思があるなら今すぐ起きてこい」


 5秒ほど沈黙した頃だろうか……、奥の瓦礫が宙を舞った。


「いやはや全く……、確かに想定外でしたよ。事前のデータとまるで違う」


 起き上がってきたアベルトは、涼しい表情で口元の血を拭った。

 なんだ、どこか様子がおかしい。


 あれだけの攻撃を受けて、なぜ笑っていられる。


「不思議だと言いたげな顔ですね、まぁそれもそうでしょう……あなた達の攻撃は強烈ですが、今の僕には何も関係ない」


 なるほど……そういうことか。

 どんなに強靭な人間でも、痛みを誤魔化すことはできない。

 予想通りなら、


「お前……痛覚を消したのか」


「さすがに頭の回転が早い、その通りです。君らの攻撃は痛いんでしょうが––––皮膚をつままれた程度しか僕には感じない」


 痛覚は人間が生きる上で必須の機能。

 身体に異常が起きた場合の、危険信号だからだ。

 それを無視できる……? こいつっ、


 まさかと思ったと同時、前方に立つミライが魔力を大放出した。


「だったら筋肉が一切動かなくなるまで、わたしの電撃を浴びせるだけよ!! 滅軍戦技––––」


「待て!! ミライッ!」


 俺の声は一歩届かず、彼女は地を蹴る。


「『雷轟撃突弾』ッ!!!」


 衝突の衝撃波が、魔法結界を大きく揺らした。

 地上をイカヅチが駆け回り、壊れた家屋が一瞬で焦げる。

 煙が晴れた奥––––ミライとアベルトが姿を見せた。


「……痛覚は偉大ですよ、けれど“人間を辞める”上では必要なことだった。じゃないと意味がないですからね」


 地面に赤い薔薇が咲く。

 ミライの攻撃は数ミリ単位で避けられ、代わりにアベルトの剣が彼女の脇腹を抉っていた。


「あぐぁッ……! カハッ……」


 膝をつくミライ越しに、俺は予想を確信に変える。

 なぜ勇者がアーシャさん1人だけだと思い込んでいた。

 なぜ勇者の数に上限がないことを考慮しなかった……!


「ご安心ください、データなど元よりアテにしておりません。言ったでしょう? 最初から必要ないと……」


 激痛に苦しむミライから血塗れの剣を抜いたアベルトの瞳は、禍々しい“金色”に輝いていた。


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