第399話・姉妹の再会
「どうも初めまして、私––––そちらにいるアリサの姉にあたる人間。名前をアーシャ・イリインスキーと申します」
目が合った瞬間、アーシャと名乗った女性は丁寧な仕草でお辞儀した。
声はお淑やかで、とても気品に満ちている。
「初めまして、生徒会長のアルス・イージスフォードです。アリサさんとはその……かなり深い付き合いをさせて頂いてます」
「えぇ、昨日聞きましたわ。アリサにまさか恋人ができるなんて……元が内気で人間嫌いだから、心配していましたけど、杞憂に終わって良かったです」
ニッコリと微笑むアーシャさんは、俺の手を握るアリサへ視線を向けた。
「昨日はちょっとしか話せなかったけど、信用してくれたみたいで嬉しいわ。改めて、本当に久しぶりね……アリサ」
「ひ、久しぶり……です。お姉……ちゃん」
顔を若干俯かせる。
直に会うことで緊張度が限界を超えたのか、元気っ娘モードから素のアリサになってしまっていた。
こうなっては、もう快活な口調など望めない。
「最後に会ったのは、あなたが共産党に連れていかれる直前だったわね。多分記憶にないと思う。まだスパイ……やってるの?」
「も、もうやってない。アルスくんが……わたしを酷い運命から救ってくれた。党もおかげで手は出してこない」
そう、アリサを縛っていたキールの共産党は、虫の息になるまで俺が叩き潰した。
今では当時のことがキッカケで、党の求心力もかなり落ちたと聞く。
次の選挙では、敗北も確実だろう。
アーシャさんは今一度俺を見つめ直し、深々と頭を下げる。
「ありがとうございますアルスさん、アリサを……私の妹を、あのどうしようもない共産党から守ってくれて」
「家族が殺されかけてるのを……黙って見るわけにいかなかっただけです。何も特別なことじゃない」
「家族……、アルスさんはアリサを家族と思っているんですか?」
「? 当然じゃないですか、こいつは俺の大事な家族です」
一瞬……、アーシャさんの瞳が曇ったような気がした。
っ、気のせいか?
「そう……。素晴らしい方に出会えたみたいで、お姉ちゃんとしても嬉しいわ」
「しかし驚きました、アリサにお姉さんがいたなんて。今までどこにいらしたので?」
「縁あって別大陸の永世中立国、スイスラスト共和国にいました。偉大な神を信じぬ愚かな共産党を潰すつもりでしたが……、あなたが代わりにやってくれたみたいで、手間が省けました」
スイスラスト共和国は、アルナ教の総本山だ。
神と天使を崇拝し、世界中に信徒を持つ宗教国家。
故に、先日行われた天界への宣戦布告を最も良く思っていない。
噂では、既に国家の専属騎士団が動いているとか……。
「ってかアリサ、お前さっきから全く喋ってないけど大丈夫かよ。せっかく家族と会えたんだぞ?」
「う、うん……! とても嬉しいんだけど。つい、緊張しちゃって……上手くしゃべれない」
俺の背後に隠れて、服を掴んでくる。
とりあえず俺の自己紹介は終わった、この場は––––
「ほら、隠れてないでちゃんと前出ろ。俺はこれから寄るとこあるから」
「えっ!? 一緒に来てくれないの?」
「姉妹水入らずの時間に割り込むわけにゃいかんだろ、それではアーシャさん。こいつのことお願いします」
アリサに捕まる前に、俺はサッサとその場を立ち去った。
立ち去って––––すぐ近くの屋根上へ跳ぶ。
高所からは、2人が並んで歩いて行く姿が見えた。
「さて、行動開始だ」
『魔法能力強化』に変身し、かつて汚職公安に使用した盗聴魔法を起動する。
案の定、アーシャさんの周囲には非常に高レベルの“防諜
魔法”が展開されていた。




