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第396話・復活、冒険者ギルド・ドラゴニア

 

 ––––冒険者ギルド ドラゴニア本部。


 普段なら深夜だろうと活気付いている酒場だが、今日も広い空間は闇と静寂に包まれていた。

 最奥の巨大クエストボードは、もう何日も更新されていない。


 あの日、古代帝国跡地で大天使ミニットマンに敗北してから……ドラゴニアの時間は止まっていた。


 ––––バァンッ––––!!


 そんな止まりっぱなしかと思ったギルドのドアが、大音量と共に蹴り開けられる。

 月明かりを背に立っていたのはドラゴニアのリーダー、カレン・ポーツマスだった。


 その顔に、前日までの陰鬱さはまるで存在しない。


「フゥッ」


 彼女は白い息を吐くと、1つのテーブルに向かって呼びかけた。


「ずいぶん不味そうな酒ね、ペイン」


 見やった先にいたのは、茶髪を短く切り揃えた端正な顔の青年。

 ペインと呼ばれた彼は、かつてアルスが追放された冒険者ギルド、『神の矛』で代わりとして雇われた過去を持つ超腕利き冒険者。


 縁あってその後ドラゴニアに腰を据え、順風満帆な生活を営んでいた……はずだった。


「お嬢か……こう見えて結構良い値段したんだぜ? これ」


 蝋燭に照らされた銘柄は、確かに高級な物。

 しかし––––


「はぁ? だったらなんでそんなシケた面して飲んでんのよ……。お酒に失礼だわ」


 憔悴し切った様子のパートナーに、いつもと変わらぬ口調で笑って見せる。


 大きな歩幅で近寄り、対面にドッカリと座るカレン。

 彼女の様子を見て、ペインは少し驚いた表情で瓶を置く。


「今の俺よりシケた面だったリーダー様が、やっといつも通りのワガママお嬢に戻ったと見える。何があったんだ?」


「別に、姉さんから喝を入れられただけよ。これ以上アルス兄さんに弱いところ見せるのも癪だし、部屋にこもってても……事態は解決しないわ」


 瓶を取り上げ、そのまま口を付ける。

 フルーツ酒のようだが、甘さが足りずカレンの好みではなかった。


「ぷっはぁ……ッ、何これ本当に不味いわね。度数いくつよ」


「50ってところかな?」


「バカじゃないの? アンタせいぜい30が限界でしょ。もしこんなのを酒雑魚のアルス兄さんに飲ませたら、きっとぶっ倒れて死ぬわね」


 もう一口だけ飲み、やっぱり不味いと断言して瓶を置く。


「しばらく迷惑を掛けたわ、ギルドの長ともあろう人間が……陥るべき姿じゃなかった。反省している」


「誰もお嬢を攻めやしないよ、あの状況じゃ誰だってああなる。現に俺も……こうして酒に逃げてるしな」


 傍に置いてある大弓を一瞥してから、ペインは天井を見上げる。


「強かったな……、大天使。名前はミニットマンとか言ったか? なかなかやりやがる」


「ほんっと、スッキリするぐらい好き勝手やられたわよね。わたしたちをここまで追い込んだのはアイツが初めてよ」


 思い浮かべるは同じ情景。

 屈辱、悔しさ、怒り、無力感––––絶望のフルコースをあの日、自分たちは味わった。


 だがいつまでも下を向いていられない、止まってしまった時間は––––


「さて、どう挽回してやろうかしら」


 動かす以外に無い。


「やっと、お嬢の口からその言葉が聞けた……ずいぶん待ってたぜ」


「わたしたちドラゴニアは、冒険者ギルドランキング第1位の世界最強パーティーなのよ? 失敗したクエストは存在しないし、受けた依頼はこれからも成功し続ける」


 冒険者ギルドは通常、クエストが失敗した段階で先払いの依頼金を相手へ返却する。

 しかし依頼金は、未だドラゴニアが持ったまま。


 つまり––––


「アイリ第1王女殿下から賜ったクエストは生きている、この瞬間もまだ続いているわ。古代帝国のアーティファクトを残らず大天使から奪い返す、目標はここだけよ」


「お嬢らしくなって来たな、でも良いのか? 確か能力を奪われて––––」


「蒼焔竜の力は確かに使えない、でもわたしが鍛えてきた剣技と経験値は……この身体と共にある。無能力だろうとアンタに負けないわよ?」


 アルスたち王立魔法学園の生徒会は、確かに強い。

 けどもあの能力はカレン自身のもの、100%他人に任せて自分は何もしないなど、言語道断。


「もちろん兄さんたちの力は借りるわ、でも能力の奪取はわたしがこの身を晒して行う。クエストもわたしたちギルドの皆でやり遂げる、それこそ––––」


 カレンは蝋燭に照らされた顔に、幼いながらも覇気のある笑みを見せた。


「“トップランカー”ってもんでしょ?」


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