第393話・ミニットマンの憂鬱
「いま……、今なんて言ったわけ?」
カラフルな玉座の間で、大天使ミニットマンは蒼い目を丸くしていた。
こうなってしまったのは、たった1つの報告を聞いたせいだ。
「温泉大都市ファンタジアへ降下した第1機動部隊が、ついさっき消息を絶ちました……。該当地域からは例の重力異常も検知されており、部隊は“何か”によって殲滅されたと思われます」
苦虫を噛み潰したような顔の大天使アグニが、気まずそうに主人へ報告を行う。
さすがの彼も、機動部隊が丸々消滅するなど想定外だった。
それはミニットマンも同じなようで、前のめりに腰を動かす。
「『ウロボロス級航宙母艦』はたった5隻しか残っていない虎の子よ? 1隻失っただけでも天界としては大打撃なんだけど……」
「私もまだ信じられません……、母艦の基本装甲は300ミリ以上。さらに対光学兵器コーティングを施した故郷の兵器。極超音速対艦ミサイルでも貫徹できないはずなのですが」
場所は内陸部、地上人が持つ戦艦の艦砲が届く距離ではない。
っとなると、最初の言葉通り例の重力異常を引き起こした何かによって撃墜されたのだろう。
その何かも、ミニットマンの中では確信となっていた。
「余剰次元の揺らぎ、局所的な重力異常。もしかして……」
思いついた概念は、自分でも信じられないこと。
「––––『超神力砲』っ?」
主人が呟いた単語に、アグニはすぐさま否定の言葉を浴びせた。
「あり得ません! 人間如きが『超神力砲』を会得など……聞いたことすらない。我々大天使ですら生身では撃てない技なのですよ?」
「そうよね、アレは天界でも最上位……特一等技術の1つ。だけどウロボロス級を一瞬で消滅させられる技は他に思いつかない」
「そんな……、ですが! だとしても疑問が残ります」
頭を抑えたアグニが、自身の絶対的な知識に基づいて反論する。
「『超神力砲』は、神力が集中した特異点を一挙に押し出し––––射線上の域内を蒸発させる技。そもそも勇者ですらない人間は神力を扱えませんし、技の傾向的に面殲滅には向きません!」
アグニの言葉は最もだった。
こちらが最後に観測したあの技は、当然天界の存在が放ったもの。
それも1本の太いビームのような形状で、広範囲に散らばる機動部隊を薙ぎ払ったにしては被害範囲があまりに大きすぎる。
考えられるとすれば––––
「竜王級は……、わたし達ですら到達していない技術領域に達した可能性がある。習得ですら本来不可能なのに、この短時間で応用まで……」
完全に想定外だった。
竜王級が未知の技を会得したと、そう仮定してウロボロス級航宙母艦を投入したが……結果は大敗。
しかも、未知の技の正体が天界特一等技術だったなんて誰が予想できようか。
数千年ぶりに胃痛を感じ始めたミニットマンは、背もたれに体重を掛けながら声を出す。
「アグニ……」
「はっ」
「例の勇者に神命を伝えてちょうだい、アイツ馬鹿だからそれっぽい雰囲気でよろしく。早く行動に移れとね。それと––––この間倒した冒険者から奪った能力。持ってる?」
「アレですか……、一応『フェイカー』に収納しております」
「ならいいわ」
肘置きへ体重を掛けながら、ミニットマンは邪悪に微笑んだ。
「出し惜しみは無しで行きましょう。『超神力砲』の習得疑惑がある以上、もうこっちに余裕なんて無いわ」




