第391話・VS天界機動部隊
––––温泉大都市ファンタジア。
静止した飛行物体は、なんの警告もなく行動を開始した。
下部のハッチが開くと、そこからマトリョーシカ人形を連想させる勢いで小型円盤が次々排出された。
10や20ではない、その数はたちまち100を超えた。
発艦はあっという間に完了。
さらに小型円盤は高速で機動し、空中に無数の赤光が輝く。
円盤が、街中へ無差別攻撃を始めたのだ。
「ッ! あやつら!!」
フォルティシア達の前で、赤いレーザーが放たれビルが一瞬で溶断される。
150ミリ口径はある陽電子ビーム砲だ。
この兵装だけでも、天界勢力だと断言するには十分だった。
それら大火力が、雨のように街へ降り注ぐ。
「いかん! 民間人を守れ!!」
「はい!!」
腰を抜かすレナを放置し、ユリアとフォルティシアは飛翔した。
大弓を握ったレナは、震えた声で呟く。
「これが……、これが神の審判だって言うの?」
眼前では、高層ビルが数十本のビームで薙ぎ倒されていた。
土埃が地上を覆い、爆音が轟く中を貫く形で2人は飛ぶ。
「これ以上––––好き勝手させませんッ!!」
魔力を全開にしたユリアが、避難民の最後列へ到着。
そのまま宝具を小型円盤へ向けた。
「星凱亜––––『火星獣砲』!!!」
杖の先端から、超高熱波が発射される。
薙ぐようにしてまとめての撃墜を試みた彼女だが、魔法が着弾して嫌でも気づく。
「こいつら……!」
小型円盤は、『火星獣砲』をもってしても引き裂くことが容易ではなかった。
とにかく硬い、手加減などしていては傷もつけられない強度だ。
「はああッ!!」
出力を最大まで上げ、極太の火炎放射を形成しようやく3機を撃墜。
煙を吐いて爆散する敵だが、黒煙を裂いて何倍もの数の陽電子砲が発射された。
「くっ!」
回避すれば後方の避難民に当たる。
反射的に自分を中心とする広範囲へ魔甲障壁を展開するが、超先駆兵器に対して長くは持たない。
ジリジリと押される中、ビームを撃っていた円盤4機が立て続けに切り裂かれた。
「ユリア! おぬしは円盤破壊に集中しろ! 避難民はワシが引き受ける!」
ボードに乗ってユリアの隣へ来たフォルティシアが、瞳を金色に染める。
「『対勇者極防御魔法』!!」
大賢者の魔法が展開される。
平坦な渦巻き上に広がったそれは、直径数キロにも及ぶ巨大防御障壁だった。
ユリアは自らに託された矛の役割を理解し、宝具を2刀短剣モードへ変更。
全速で障壁に取り付く円盤たちへ、自慢の剣舞を披露していった。
「彗星烈斬!!!」
加速に加速を重ねて、円盤を1機ずつ着実に斬り落としていく。
撃墜数が10を超えた辺りで、円盤部隊も回避機動を取りながらユリアへ向け集中砲火を浴びせた。
逃げ場を徐々に狭められ、最後には数本のビーム砲がユリアへ命中した。
なんとか宝具で直撃だけは防いだが、吹っ飛んだ先でビルに背中から叩きつけられてしまう。
「ぐはっ……!?」
痛みで呼吸が止まり、意識が明滅したところへ––––
「ッ!」
30機の円盤部隊が、ユリアへ向け陽電子砲を一斉射した。
ビームが迫る中、歯を食い縛り、彼女は瞳に激情の炎を燃やす。
「舐めないでくださいッ!! 不埒な機械の分際で!!」
宝具を魔法杖へ変更。
渾身の攻撃で迎え撃った。
「星凱亜––––『絶・火星獣砲』ッ!!!」
潜在能力の一部が解放された獄炎の一撃は、束になったビームを纏めて押し返した。
直撃した円盤部隊が、1発で15機も叩き落とされる。
余剰分の四散したエネルギーですら、さっきまで撃破困難だった円盤を中破せしめた。
この僅かな時間で、追い詰められたユリアがまた一歩進化したのだ。
しかし––––
「ハァッ……はぁ」
新技は当然最適化されておらず、燃費としては最悪。
既に今晩だけでもフォルティシアとの練習試合。
さらにはベリナとの戦闘も行っていることから、ユリアの魔力は殆ど底を尽きかけていた。
「そんな……っ」
ユリアが見上げた先、上空に浮かぶ巨大円盤母船のハッチがさらに数箇所開いた。
開口部はダストシュートのように、際限なく小型円盤を吐き出し続けた。
総数はこの時点で初期段階を大きく超えて、実に300機を上回っていた。
1機落とすことすら手間が掛かる上に、小型円盤自体が高火力高機動の塊。
民間人を守りつつ戦闘するというプランは、もはや破綻したと言って良い。
さらに、
「こりゃ……参ったのぉ」
諦めから、苦笑いを浮かべる大賢者。
なんと母船の各部位が変形を開始、発艦作業を終えて攻撃態勢に入ったのだ。
ザッと見た限りでも、小型円盤の倍以上はあろう口径を持った陽電子砲が数十門。
さらにミサイル砲口や、その他大量の武装が解き放たれた。
「ッ!!!」
街に、殲滅の音が鳴り渡る。
限界を迎えつつあるユリアとフォルティシア。
戦線に……崩壊の足音が迫っていた。




