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第389話・侵略者の足音

 

 ラロナ大陸、上空––––高度500km。


 ファンタジアでユリアの爆裂魔法が発動したと同じ瞬間、ミリシア王国の直上でほんの数秒だけ磁場が乱れた。


 ––––ジジッ––––


 空より上の大気圏外、宇宙空間と呼ばれる漆黒の場所で大質量の物体が動いていた。

 目には見えない。


 裸眼、光学観測だと全く透明なそれは、船底部にあるハッチをゆっくりと開閉……。

 開き切った開口部から、1つの物体を産み落とす。


 物体の全長は700メートル強、特殊な装甲板で覆われており、まずこの惑星で生産された物ではない。

 異物……という言葉が最も似合うだろうこの物体は、大気圏に超高速で突っ込みながら––––流れ星のごとく地上へ降下していった。


 ◆


「お疲れ様です師匠、街の修復は大丈夫そうですか?」


 ベリナを葬り、無事にテロを阻止したユリアたちは、ファンタジア・ツリーの根元に集合していた。

 傍には大賢者ルナ・フォルティシアと、冒険者レナ。


 そして捕らえたアルナ教戦闘員達が座る。


「前と違って、今回はワシも無傷じゃ。余裕で元に戻せるじゃろうよ」


 帽子をかぶり、ハルバードを収納しながら彼女は笑顔を見せた。

 その隣で、大弓を持ったレナが不機嫌そうに呟く。


「っていうかエーベルハルト! 帰省してたんならもっと早く来てよね。おかげでめっちゃあの女に殴られたんですけど?」


 まだ若干不満そうなレナを見て、ユリアは表情を崩す。


「すみません、でも貴女のおかげで多くの方が救われました。とても勇気ある行動だったと思いますよ」


「フンッ」


 鼻を鳴らして大弓を担いだ彼女は、首を横に振る。


「まぁ良いわ。こんな雑多な奴らじゃ、ファンタジアの守護神たるわたし達に歯が立たなかったってわけよ」


「あの、守護神ではないのですが……」


「似たようなもんよ、こいつらを警務隊にサッサと引き渡して早く帰りましょう。汚れたしシャワー浴びたいわね……街も重傷者もなんとかなりそうだし♪」


 空に1つの紅点が瞬いた。

 最初こそ明滅していたそれは、時間を追うごとに大きく成長していく……。


「あっ、そうだ! 年明けたらまた王都に戻るんでしょ?」


「はい、来年3日に帰る予定です」


「竜王級に伝えておいてよ、今度会ったら必ずリベンジで撃ち抜いてやるってさ」


 紅点はやがて三日月、満月を超えた明るさを放つ。

 真っ赤に光るそれは、大気摩擦によって発生する高熱。

 “侵略者の足音”だ。


「ん? あんなところに火星なんてあったかの?」


 ふと上空を見上げたフォルティシアは、しばらくその光を凝視して––––


「ッ……!!!」


 青ざめた。

 空に煌めく光は、見慣れた太陽系第4天体なんかでは無い。

 大質量の巨大物体だった。


「全員伏せろ!! 届け––––『アルファ・ブラスター』!!!!」


 宝具、インフィニティー・ハルバードへ即座にエネルギーを充填し、今すぐ放てる中では最高峰の技を撃った。

 爆風でレナは尻もちをつき、ユリアはすぐさま戦闘態勢へ移行。


 山すら抉るフォルティシアの一撃は、降下途中だった物体へ直撃した。


「チッ、ダメか……!」


 だが効いた様子はない。


 物体は当たったエネルギーを四散させ、やがて肉眼にハッキリ見える高度で速度を落とした。

 徐々に減速し、最後にはファンタジアを覆う帽子のように上空で浮遊する。


 全員の目に映っていたのは、“巨大な円盤”だった。

 下部が回転し、上部の出っ張りには窓があることから乗り物だと推察される。


「アレは……」


 ユリアの頭に、以前アルスと交わした雑談が()ぎる。

 この世界には未確認の飛行物体が存在していて、それらを総じてUFOと呼称していると。


 今眼前に浮かんでいるのは、そんなUFOの中で最もメジャーな物と教えられた円盤型。


 ––––アダムスキー型UFOだった。


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