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第388話・ユリアVSベリナ・ハーゲン

ユリアに言ってはいけないことランキング第1位回。

 

 月明かりが1人の少女を照らす。

 煙の晴れたビルの屋上で、ユリアは妖艶な笑みを浮かべていた。


「あらあら、さっきまでの勢いはどうしたのでしょう。レナさんを痛ぶっていた時はあんなに元気でしたのに」


 見下ろすのは、フォルティシアによってホームランの勢いで吹っ飛ばされたベリナ。

 荒く息を吐き、握った剣を砕かんばかりに床へ叩きつけた。


「調子に乗ってんじゃねぇよゴミが……! 竜王級以外には負けないだと? おめでたい妄想も大概にしやがれ」


「あら、では貴女ならわたしに勝てると言うのですか?」


「当然だ。爆裂魔法を極めた今の俺様なら、テメェを今すぐ木っ端微塵にできる。なんなら“竜王級を超えた”と断言できるぜ」


 空気が固まった。

 ユリアの笑みがフッと消える。


「竜王級を超えた? 貴女……今確かにそう仰いましたね?」


「そうだとも。恐怖で聞こえなかったか? 何度でも言ってやるよ……俺は爆裂魔法をこれ以上なく極め、竜王級を超えた」


 靴裏で屋上を蹴ったベリナは、一気にユリアへ襲い掛かった。

 回避する暇など与えない、絶対必殺の一撃が放たれる。


「『ノル・エクスプロージョン』!!」


 街を灰で覆った強大な魔法が、至近距離からユリアへ直撃した。

 衝撃波はその性質上、真上へ逃げるためギリギリでビルは持ち堪える。


 これだけの大爆発だ、

 四肢は千切れ、原型など留めていないだろうと確信したベリナは––––


「ッ……!?」


 目を見開く。

 煙の奥から現れたのは、冷たい瞳をした無傷のユリア。


「竜王級を超えた。……その言葉がどういう意味を持つか、ホントに考えた上でしゃべったのですか?」


「はぁ!? 意味わかんねえなッ! 一体どんなズルで防いで––––」


 二の句を次ぐことは許されない。

 ハンマー状に変形した宝具が、ベリナの左側面を潰さんばかりに砕いたからだ。


「アガッ……!?」


 あまりの威力に身体は吹っ飛ぶが、すぐさまユリアの左手が宙にあるベリナの首を掴んだ。


「かひゅっ!」


 息を吸う暇すら与えられず、荒んだコンクリートの屋上へ叩きつけられる。

 ヒビが走り、屋上の一部が崩れ落ちた。


 涙の奥で見えたのは、上空へ広がる夜空のように静かに、漆黒の感情をたぎらせ激昂するユリアだった。


「貴女のような卑怯者が、よもやあのお方を超えたとは……随分と片腹痛いことを言いますね」


 恐怖。

 ベリナの心を支配したのは、耐え難い激痛すら超える畏怖だった。

 眼前の竜は、容赦なく倒れるベリナの胸へハンマーを落とす。


 吐き出された血が、大量の噴水のように舞った。


「わたしは竜王級アルス・イージスフォードと、命を賭けて戦った女です。彼の強さを評して良いのは––––自ら血を吐き、正々堂々痛みを伴う戦いをした者だけなのですよ」


「オブっ……!?」


 今度は顔面にハンマーが落とされる。


「竜王級を超えた? 笑わせますね、このわたしに傷も付けられなかった女が……会長に勝てるわけないじゃないですか」


 何度も何度も、大質量のハンマーが振り落とされた。

 圧倒的な力量差が、痛みでもって思い知らされる。

 コンクリートに身体が埋まっていくたび、ベリナは後悔した。


「おやおや、もうお昼寝ですか?」


 瓦礫の中から首根っこを掴み、ベリナを無理矢理立たせる。

 もはや彼女の戦意は、粉微塵に粉砕されていた。


「今貴女をボコボコにしているこのわたしを、会長はまるでボロ雑巾のようにしてくれたんですよ? あの方を超えたなら、まずわたしをズタズタにして欲しいものです」


「あっ……、カッ」


「あらすみません、首を掴まれていては喋ることもできませんか」


 手を離したユリアは、間髪入れずにベリナを殴り飛ばした。

 上空高く昇った彼女へ、何重にも重なった魔法陣の砲口が向けられる。


「さっき、貴女は爆裂魔法を極めたとか……そう言ってましたよね?」


 集中する魔力は、この世のどんな魔人級魔導士でも不可能な規模で展開された。

 燃え上がり、煌々と輝く魔力の中心で––––ユリアは杖をベリナへ向けた。


「残念ながら世の中、上には上がいるものなのです。超天才であるこのわたしのように」


 凝縮されたエネルギーが、一挙に解き放たれた。


「『最上位爆裂魔法(エクステッドゼロ・エクスプロージョン)』」


 ファンタジアの上空に、昼間が訪れた。

 膨大な熱量が爆風と共に広がり、雲を一切合切吹き飛ばす。

 ベリナ・ハーゲンは、遺言を残すことも許されず––––この世から消し去られた。


 一連のテロ攻撃はこれで終わる。

 この時は、全員が思っていた。


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