第387・師弟タッグ
自称実力者を痛ぶるという、せっかくの楽しみに横槍を入れられた。
不機嫌を隠さず鼻を鳴らしたベリナは、正面に立つユリアを睨め付ける。
「あー出た出た、自分を最強とか思ってる痛い女。竜王級の恋人だか知らねぇけど、たった1人で何ができる? 今頼りの彼氏さんはいねぇぜ?」
「はて、何を仰っているんでしょう」
宝具を構えたユリアは、不敵に笑みを浮かべる。
「騒ぎを塗り替えるのに、わたし1人なわけ無いでしょう?」
言い終わったとほぼ同時、ベリナの横を暴風が走り去った。
振り返る時間もなく、背後で攻撃態勢に移っていたアルナ教の戦闘員たちが吹っ飛ぶ。
「いやっほぉおう!!! ずいぶんご機嫌そうじゃなぁ天界の犬共よ!」
ボード状の飛翔道具に乗って現れたのは、巨大なハルバードを携えた大賢者ルナ・フォルティシア。
改良に改良が重ねられた『ぶっとび君8号』は、車など比較にならない速度を出すことに成功していた。
高速で急ターンし、屋根に飛び移った教団戦闘員たちへハルバードを向けた。
「大賢者か……! おいテメエら! アーシャ様に神器を2つご献上できるチャンスだ! そのロリババアは容赦なくぶっ殺しておけ!」
「殺せるかのぉ?」
「慌てんな、弟子が終わったらすぐに相手してやるよ。最も––––弟子の惨殺現場を見てすぐに気も失せるだろうがよ」
ベリナの後方で、フォルティシアとアルナ教戦闘員の戦いが始まる。
このまま二手に分かれて相手するのもアリだが––––
「それじゃあ普段通り過ぎますね」
ベリナの眼前で、ユリアが煙のように消えた。
否っ––––
「ぐっ!!?」
十分取ってあった距離が刹那の間に詰められ、ベリナは気付かぬうちに蹴りを受けていた。
スピードが速すぎるあまり、目で追えなかったのだ。
「師匠!」
吹っ飛んだベリナの先で、戦闘員たちの相手をしていたフォルティシアがハルバードを振った。
「それ来た! ほりゃ!!」
野球バットの要領で振られた神器は、ベリナの背を直撃した。
「あぐぉッ……!!」
頑丈な鎧が砕け、ベリナは100メートル離れた無人のビルに頭から突っ込んだ。
コンクリートが崩落し、ガラスが砕け落ちる。
「ベリナ様!!」
これでしばらくは静かになるだろう。
「ホームランじゃのぉ」
自分たちそっちのけでビルを見上げるフォルティシアに、戦闘員たちも黙ってはいない。
背後を取ろうとダッシュしたが、手のハンマーが小さな身体を潰すことはなかった。
「貴方たちは全部で10人ですか、なら––––」
またも神速で詰めてきたユリアが、複数人の打撃をたった1人で受け止める。
攻撃を受け流しながら、宝具の形状が大きく変わった。
「各個撃破が一番効率的ですね」
インフィニティー・オーダーをハンマーモードにしたユリアが、その場で1回転した。
大質量の打撃に、ガードの上から信者たちはパワー負けする。
「くっそ!! あの女……どんなパワーしてやがる!」
「同じハンマーでも、神器と鈍器ではクオリティが段違いじゃな」
金髪が勢いよくなびいた。
ユリアを追い越す形で、フォルティシアが一気に加速。
「おいっ! 待っ––––」
「お断りじゃあ!」
まだ空中にいた彼らを追撃し、ハンマーのグリップ部分を全員分斬り裂いてしまった。
これではもう、武器としての機能など期待できない。
「ユリア!」
「はい!!」
2人が同時に空中高くへ飛び上がると、真夜中のファンタジアに恒星のような煌めきが現れた。
発動するは、種族を超えた絆の証。
「「星凱亜––––『金星煌爛雨』!!」」
王国一の大賢者と、王国一の天才による合体師弟攻撃。
光球は中心から破裂するといくつもの子弾となって街へ降り注いだ。
その全てが誘導弾であり、無用な被害を一切出すことなくアルナ教信者たちを狙い撃ちした。
10ヶ所で爆発が起きた後、訪れたのは静寂。
あまりに一方的な戦闘に、座り込んでいたレナは思わず汗を流す。
「わたしじゃ傷も付けられなかった奴らを……たった一瞬で、これが竜王級の彼女と大賢者」
地面に着地したフォルティシアは、レナの傍へ近寄る。
「怪我の具合はどうじゃー?」
「……ッ、フン! 別にどうってことないわ。自分で立てるし」
「これはおせっかいじゃったなぁ」
その見栄も、ふらついた所を大賢者に支えられることでアッサリ見破られる。
「無理をするでない、女の子なんじゃし傷が残ったら事ぞよ?」
「くっ……! でもまだアイツが残ってる」
「大丈夫じゃよ」
崩落寸前のビルを見上げたフォルティシアは、哀れなものを見る目を向けた。
「ワシの弟子は、この世でただ1人の男以外には絶対負けぬよ」
ビルの屋上で、眼球を剥き出しにして激昂するベリナへ––––ユリアが立ちはだかった。




