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第386話・ファンタジア・テロ

 

 テロの始まりはファンタジアの中心部、雑踏溢れる中央交差点だった。

 年の瀬ということもあり、親子連れやカップルが大勢賑わっている。


 そこへ、悲劇は訪れた。

 上空から突如放たれた爆裂魔法が、無防備な民間人へ直撃したのだ。


 年末の休息ムードが、一瞬で血に染まる。

 信号機がへし折れ、人が紙のように吹き飛ぶ。


「おい!テロだ!!」


「早く! 早く逃げろ!!」


 混乱した民間人が、我先にと四方八方へ逃げ出す。

 走行していた車も次々に炎上し、周囲へ黒煙を撒き散らした。


「ハッハッハッハッハ!!! 見たかよ竜王級! これが俺の真の力だ! 前までの俺とはもう違う! 生まれ変わったんだ!」


 ビルの屋上で、1人の女が高笑いしていた。

 格好は紫色に染まったベリーショートの髪を下げ、全身を同色の鎧で覆っている。


「アイツが手の届かないところで、過去に救った街を叩き潰すのは楽しいなぁ……! たまんねえぜ!!」


 元王国近衛連隊長––––ベリナ・ハーゲンが剣を振ると、再び中央通りに大爆発が起きた。

 看板や車が転がり、路面が切り裂かれる。


 人々の悲鳴が、ベリナを喜ばせる合唱のように響いた。


「あぁもったいない、俺の実力を認めなかったバカな王政府のせいで無実の民が死んでいくのか。遺族は是非とも王女殿下を恨んでもらいたいもんだッ!」


 剣に魔力を宿らせる。

 ベリナは以前の王城宝物庫戦でアルスに完敗した恨みを、全く関係ない人間と街へぶつけていた。


 胸には眩しく輝く人工宝具––––『フェイカー』があった。


「さて、どうすっかなぁ」


 ベリナが次に標的としたのは、逃げ出した民衆の中で転んでしまった少女だ。

 逃げ惑う大人たちに何度も踏まれ、苦しげな表情で倒れている。


 もう自力では動けないようだった。


「お前に決めたぜぇ、俺は優しいからな……痛いのをすぐに治療してやるよ」


 剣の先端から、魔法が放たれた。


「『ノル・エクスプロージョン』!!」


 上位の爆裂魔法が、ビルを焼き払いながら少女へ接近して––––


「あん?」


 空中で爆発した。

 余波で窓ガラスが一面砕け散るが、人的被害はない。


「せっかく街も復興したってのに、ふざけんじゃないわよ……お前!」


 声の主は、倒れた少女を庇うようにして立っていた。

 ピンク色の髪を伸ばし、大弓を持った15歳ほどの女の子にして冒険者。


 名を、レナ・スカイピア。

 夏休みにアルスたち生徒会がファンタジアを訪れた際、コロシアムでの試合をきっかけに出会ったあの下級冒険者だ。


 当初散々イキリ散らした挙句に敗北し、最後はアルスたちを本気で認めた人間。

 変わっている点と言えば、アルスに試合で負けたあの頃より髪は伸び、幼さも少し消えているようだった。


「わたしの大好きな街でテロなんか起こしやがって、絶対許さないんだから!!」


「はっ! 誰だか知らねえが面白え! かかってこいよ––––自称正義のヒーローさん」


 ビルから飛び降りたベリナへ、レナは間髪入れずに弓矢を発射していた。

 威力は対アルス戦の時より大幅にアップしており、先端にはエンチャントも付与されている。


「ちッ!!」


 着地と同時に弾くが、あまりのパワーに仰反る。

 もう毒矢で細工していた、あの頃の卑怯な姿などどこにも無かった。


「まだまだ!『アローズ・マジックヒューズ』!!」


 放たれた1本の矢が、複数に分裂––––ベリナに近づいた瞬間矢尻が爆発した。

 瞬く間に爆炎が彼女を覆う。


「うっぜええ!! なッ!!」


 しかしフェイカーで強化されたベリナは、たったの1振りで矢の嵐を遮った。

 レナの表情が歪む。


「ずいぶん地元愛の強い冒険者みてぇだが、覚醒した俺の敵じゃねえ。それに––––」


 剣を構えたベリナは、ニタリと笑う。


「騒ぎを起こすのに、俺1人なわけねぇだろ?」


「ッ!!?」


 焦げたビルの影から、ローブをかぶった集団が飛び出てくる。

 全員が手にハンマーを具現化し、奇襲という形でレナへ襲い掛かった。


「ぐはっ!?」


 数発は避けたが、正面から来た2人掛かりでの打撃をモロに受ける。

 勢いのまま吹っ飛ばされたレナは、コンクリートの壁に突っ込んだ。


「おらよっとッ!!」


 舞い上がった煙へ入り込んだベリナは、倒れかけのレナへ靴裏を叩きつけた。


「オエッ……!」


「ほらほら! どうしたよさっきまでの勢いは!? 子供を守るんだろ!? 守ってみせろよぉ!!」


 壁へめり込んだレナへ、執拗に蹴りを打ち込み続ける。

 砂埃が晴れると、全身を砕けたコンクリートにめり込ませ、口から血混じりの胃液を垂らすレナが現れた。


 傷だらけの手から、弓がこぼれ落ちる。


「無様だな冒険者さんよぉ、変にしゃしゃり出るからこうなんだよ」


「カハッ……あぅ」


「痛いか? じゃあ楽にしてやる」


 剣を振り上げる。

 鉄の刃に、魔力が集中していった。


「そこらのちょっと強いだけのヤツじゃ、もう俺は止められねぇ! この区画ごと全部消してやるよ、愛しの街で死ねることを光栄に思え!!」


 剣が振られる––––

 発生した大爆発が、レナを跡形も無く殲滅した。

 そう実感した矢先。


「じゃあ、ちょっとどころじゃない強さの人間が相手してあげますよ」


 顔を上にあげる。

 空中でレナを抱きながら浮いていたのは、光を反射する清廉な金髪をシュシュで括った小柄な少女。


 だが、レナには顔に見覚えしかなかった。


「ユリア……エーベルハルト!」


「お久しぶりですレナさん、あれから随分と成長なさったんですね。もう卑怯なことをしてないようで嬉しいです」


 地上に降りたと同時、レナは痛みでしゃがみ込む。


「気をつけて……! アイツ、強さが半端じゃない。取り巻きも普通じゃないわ」


「大丈夫ですよ、レナさん」


 宝具『インフィニティー・オーダー』を顕現させたユリアは、この場の誰とも比較にならない規模の魔力を放出した。


「わたし––––こう見えて天才ですので」


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