第385話・ユリアVS大賢者フォルティシア
ファンタジアの師弟回です。
––––温泉大都市ファンタジア、フォルティシア邸。
以前ルールブレイカーとの戦闘で傷付いたこの街は、季節の移り変わりと共に大部分が復興していた。
そびえ立つビル群の間で、修復中のファンタジア・ツリーが夜闇に映る。
王都に負けない賑やかさから少し離れ、郊外にまで行くと1つの立派な屋敷があった。
「その調子じゃユリア! あともう少しじゃぞ!」
広い庭で金属音が響き渡っていた。
重く鋭いそれは、人間離れした剣撃のぶつかり合いだった。
「星凱亜––––『彗星連斬』!!」
月を背に空中で2刀短剣を構えたユリアが、超高威力の連撃を叩き落とす。
攻撃を受け止めた大賢者フォルティシアは、巨大なハルバードで確実にいなしていった。
衝撃波が草木を切り裂き、煉瓦に亀裂を入れる。
この2人は、現在修行の真っ最中だった。
弟子であるユリアの頼みに押され、最初は渋々だったフォルティシアだったが……。
「よいっしょぉ!!」
「ッ!?」
目に見えない速度でハルバードが振り回される。
およそ中学生サイズの身体からは想像できない力で、フォルティシアはユリアを弾き飛ばした。
「その程度じゃ、まだワシには届かんぞぉ?」
ニッと笑う。
戦っている内に、大賢者はすっかりノリノリになっていた。
それはもう楽しげで、薄い金髪をなびかせながら美しい童顔を輝かせる。
しかも、先に負けた大怪盗イリア戦の反省を活かしているのか、強さそのものが桁違いに跳ね上がっていた。
伊達に大賢者を名乗ってはいない、
今なら、覚醒した血界魔装とすら良い勝負をするだろう。
「さすが師匠……! まさかここまでで一撃も与えられないなんて」
さしものユリアも、これは想定外。
だがこれでアッサリやられるような弟子ではない。
屋敷の壁に靴裏を叩きつけ、ガラスが割れる勢いで蹴った。
弾丸のような速度で突っ込んだユリアが、迎撃態勢のフォルティシアへ肉薄して––––
「だっ!!」
宝具を魔法杖モードに変形、激突寸前に地面へ打ちつけた。
先端のクリスタルが、激しく瞬く。
「『爆裂魔法!!』」
大賢者の眼前で爆発が顕現、大量の土埃が発生した。
爆風と煙で視界が一気にゼロと化し、ユリアの姿を見失う。
弟子の機転に、師匠は笑みを浮かべる。
「攻撃手段を1手に留めるな、ワシの教えた通りじゃな」
頭より大きな三角帽子をかぶり直し、ハルバードを大きく振った。
斬撃で煙が裂かれ、視界が晴れる。
「後ろと見せかけて––––」
影が映る。
まだ残っていた爆煙ごと、フォルティシアは正面の空間を斬り裂いた。
予想は大当たりで、前面から肉薄してきたユリアを直撃……したと思った瞬間。
「んぬっ!?」
ユリアと同じ魔力を持った分身が、真っ二つになって消えた。
本人と同質量、全く同じ波長の魔力を持った分身を作るなど高等中の高等技術。
おかげですっかり騙されてしまった。
つまり正面じゃない、本命は––––
「しまっ!」
気づいた時には遅かった。
振り返ったフォルティシアの視界を、爆光と爆音が覆い隠した。
「うぐっ……!!」
目と耳の感覚が消え失せた。
すぐに、これはユリアが放った超密度魔力球の炸裂だと悟る。
凝縮された魔力が外郭を弾け飛ばし、非殺傷だが強烈な閃光と爆轟を発生させたのだ。
昔のユリアなら、こんな技を使う発想もなかっただろう。
間違いなく、
「彼氏の影響って怖いのぉ、さながら“スタングレネード”と言ったところか」
目を瞑ったフォルティシアは、その場でハルバードを落とした。
両手を上に挙げる。
何故なら、“首筋に剣が突き付けられていたから”だ。
「わたしの勝ちですね、師匠」
未だ耳鳴りの止まない鼓膜に、可愛い弟子の勝利宣言が入った。
「そのようじゃな、さすがアルス以外には負けないと公言しただけあるわい」
自重で地面にめり込んでいたハルバードを、軽い動作で拾う。
ユリアの方も、宝具を別空間に収納した。
「ありがとうございます、でも何か……今一歩足りない気がするんですよね」
「随分と抽象的じゃのぉ」
「わたしの目的は、いつか会長に完全勝利することですからね。そのためにはまだ……超えなきゃいけない壁がある気がするんです」
「壁かのぉ」
しばしの沈黙を破ったのは、中心部から轟いた爆発音だった。
見れば、夜の街明かりを裂いて火災が立ち昇っていた。
間違いない。
「テロか」
「テロですね」
犯人は竜王級など、国の主力がいる王都を避けたつもりなのだろうが––––
「年末の休暇をぶち壊す不埒者……、ぶっころ案件ですね。師匠」
「うむ!」
大賢者が指を鳴らすと、彼女の足元にボードが現れた。
対アルス戦、イリア戦でも使われた自作飛翔魔導具。
通称『ぶっとび君』、現在はさらに改良され8号の名を冠していた。
「ワシら師弟がおったこと、犯人に嫌と言うほど後悔させてやろうぞ!」




