第383話・竜王級の新技開発
俺たちの頭上を覆っていた誰かさんの魔法結界は、半端じゃない魔力の爆発を最後に……しばらくして消え去った。
術者の死亡で、結界内の破損が修復されないんじゃないか心配だったが、それはなんとか杞憂に終わる。
どうやら、結界の主は無事に生き延びたようだ。
まぁ他人の心配より、今は––––
「マジすんませんでした……! ラインメタル大佐!」
綺麗に直った大使館の執務室で、俺はガッツリ頭を下げていた。
下げたどころではない、ミライから教わった土下座というやつだ。
前に座るのは、上半身半裸のジーク・ラインメタル大佐。
さすが軍人らしく、引き締まった筋肉が強調し過ぎずにラインを形成……。
いや、今気にするのはそこじゃないっ!
半裸の勇者と、土下座する竜王級……絵面としてはとんでもない光景だが、これにはちゃんと理由がある。
「まぁまぁ、そう謝らなくて良いよイージスフォード君。私は感銘すら覚えているんだ……。まさか“あんな技”を生み出してしまうなんてね」
事は数十分前に遡る。
大使館の庭で組み手を開始した俺と大佐は、実際かなり良い勝負をしていたのだ。
それはまさしく壮絶の一言。
勇者として全力を出してきた大佐は、流石にグラジオン大陸トップの実力者。
パワーとスピードはかなりのもので、さらに各種技術は向こうが上。
だがこちらにだって意地はある。
互いに培ってきた戦闘技術をフルで発揮し、この時点で大使館は原型を留めていなかった。
『はあぁっ!!!!』
ほとんど互角の戦いの中で、俺も大佐も楽しさですっかり興奮し切ってしまっていた。
互いに地面を蹴り、超高速で衝突して取っ組み合う。
ブルーのオーラと、金色に輝く勇者のオーラがぶつかり散らした。
『せっかくだイージスフォード君! キミには勇者の正体……そして神力の使い方を教えてあげよう』
そんな中出た大佐の発言。
戦いながら話される真実は、国家機密に等しいもの。
どうやら勇者の正体とは、天使によって神力の適合化が行われた人間を指すという。
神力とは信仰心の具現化。
そのエネルギー量は、魔力の実に10倍。
普通の人間ではまず扱えないが、竜王級の特殊体質ならイケると大佐は睨んだらしい。
これがまず良くなかった。
俺はつい最近まで忘れていたのだ……。
“自分は加減ができない人間”という事を。
一旦距離を取る。
言われた通り、俺は右手に神力を集中させた。
『おぉ、もう神力を纏うことができたか……! やはり才能は素晴らしいな、どうだ、そのまま私のように身体能力を強化できるかい?』
荒れ果てた庭で、嬉しそうに話す大佐。
『集めることはできても……! 強化はできないですね、魔力とあまりにも勝手が違い過ぎます』
『ふぅむ、じゃあ––––』
口角を吊り上げる大佐。
『今から私の真似をしたまえ、とりあえず纏うのではなくだね……』
このやり取りが、とんでもない結果を生んだ。
放たれたというか、生まれた技は明らかに常識の範囲を超えていた。
「ッッ!!?」
結界内が光で満たされ、反動で俺は吹っ飛ぶ。
大佐に至っては一瞬で表情が強張った。
『これは……やらかしてしまったな』
結論から言うと、ラインメタル大佐が命懸けで結界内の全周にエネルギーを散らしてくれたおかげで助かった。
もし技が受けられることなく放たれっぱなしだったら、今頃王都は“完全消滅”してしまっていただろう。
その代償として、大佐は右腕の骨とスーツを犠牲にした。
「頭を上げてくれ、君が謝ることなど何1つ無い。むしろやっとかという……感慨に満ちた思いでいっぱいだ」
「どういうことです?」
「私はね、ずっと……ずっと思っていたことがあるんだよ」
右腕の痛みなど無いように、大佐は新品の服を取り出して着込んだ。
「なぜいつも勇者は魔王城に直接出向き、ご丁寧にも玉座の間に行く必要があるんだとね」
「それは……、そこに魔王がいるからじゃ?」
「実際はそうだ。でもイージスフォード君だってこないだ思ったんじゃないか? ルールブレイカーの移動要塞に、わざわざ乗り込む必要などあったのだろうかとね」
あー、そういうことか。
大佐の言いたいことが何となくわかったぞ。
俺は言われた通り立ち上がる。
「さっきの技を会得できれば……、敵の待つ本拠地にわざわざ出向く必要もない。そういうことですね?」
「察しが良い、その通りだ。よし––––せっかくだからあの技に名前を付けよう」
大佐によってすぐに命名がされた。
「名前は––––」
ネーミングが終わる。
安直というか、そのまんま過ぎる気がしないでもないが、他に良い名前も思いつかなかったのでよしとした。
ただ、この技を使う時など今後来るんだろうか……。
なんて考えていた時だった。
「失礼します! ラインメタル大佐はいらっしゃいますでしょうか?」
ドアがノックされ、外から声が掛けられる。
何事か大佐が問うと、廊下の人間は張り詰めた声を出した。
「温泉大都市ファンタジアにて、大規模魔法テロが発生!! 主犯格は天界信仰派閥筆頭のアルナ教団と思われます!」
天界信仰派閥……、敵である天使を未だに崇拝する巨大宗教団体だ。
そんなヤツらがテロを起こしたとなると、普通は不安でも抱きそうなものだが……。
「ファンタジアか、タイミングの悪い奴らだな……」
思わず同情していた。
なんせ、今ファンタジアには魔人級魔導士最強にして、俺の生徒会が誇るNo.2が滞在しているのだから。
この世で俺以外には決して負けることがない、世界最強の彼女。




