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第382話・魔壊竜アリサ・イリインスキーVS大天使東風

今回もボリュームプチ増量です。

 

「そうか、涙と血はほとんど同じ成分だった……! すっかり忘れていたよ」


 見下ろした先にいるのは、さっきまで瓦礫にまみれて倒れていたか弱い少女ではない。

 正真正銘、竜王級と正面から殴り合えるだけのポテンシャルを持ったドラゴンだった。


「全力で行くよっ、東風店長」


 バーナーのようなオーラを発しながら、アリサは上空の大天使目掛けて飛び上がった。

 そのスピードは一瞬でマッハを超える。


 すかさずガードを固めたが……。


「グゥッ……!!」


 ガッチリと固めた筈だった。

 しかしアリサの拳は、大天使である東風をアッサリと弾き飛ばしていた。


 まるで違う、パワーもスピードも桁違いに上がっている……!

 血界魔装、衣と鎧で––––


「こんなに違うなんてね!」


「ッ!!」


 東風の頭上に、光の輪っかが現れた。

 それだけでは無い、纏う神力が一気に跳ね上がった。

 数倍……いや、数十倍!


「エンジェル・リンク––––コード3!!」


 神々しく翻った純白の翼と合わさり、いよいよ彼は神話に登場する上位種族としての姿を見せる。

 この形態は、先のルールブレイカー戦でスカッドだけが見せた姿だった。


 大天使のみが用いることのできる最上位コード。

 抱いたのは”危機感“。

 それほどまでに、アリサの放った攻撃は桁違いのパワーだったのだ。


「僕に本気を出させるのは、君で人生2人目だ……アリサちゃん。見せてくれよ、100%の竜の力を!」


「言われなくても––––!!」


 愛を拳で語ると決めたアリサは、強大な大天使に心身で一歩も引かなかった。

 さっきまでと打って変わり、東風の楽観ムードも消え去る。


「極大魔法––––『クェーサー・ホール』!!」


 先に動いたのは東風。

 指先に一瞬で生成した光球は、異常な密度で集められた神力の固まり。


 まともに食らえば、同族ですらタダで済まないだろう。

 もう既に加減する気などゼロということだ。

 正面から向かってくる攻撃に、アリサは立ち止まって目を閉じた。


「なっ……!」


 着弾した極大魔法は、アリサから1メートルという所で消滅する。

 理由は明白だった。


「魔壊の力か……! パワーアップして同じ波長の神力にも対応できるようになったんだね」


 アリサの能力は、自分と違う波長の魔力や神力を阻害するもの。

 これを逆手に取り、東風はさっきまで波長を読んで魔法を命中させていた。


 けれど今の攻撃は、ナノ秒単位のスピードで波長を変えられたことによって無力化された。

 以前のアリサでは、到底不可能な芸当だった。


 だが所詮は受け身のスキル。

 空から一方的に仕掛ければ、優位を取れると踏んだ刹那。


 ––––ギィンッ––––!!!!


 潜水艦のソナーに似た音が響いた、もちろん発生源は1つ。

 アリサが瞳を開けたと同時、ドーム状に衝撃波が広がったのだ。

 音速で迫ったそれは、空中に浮かぶ東風を飲み込み––––


「えっ!?」


 体から神力を四散させた。

 飛翔魔法(メテオール)を強制解除させられた東風は、真っ逆さまに落下。


「やっば……!」


 葡萄色の凛々しい瞳が、目の前にあった。

 東風は自分が強烈な威力の蹴りを受け、初めて肉薄されたことに気づく。


 吹っ飛びながら神力を纏い直し、体勢を整えた。


「驚いたな……! まさか強制的に相手の魔法を引き剥がすとは。本当に魔壊竜オーニクスそのものだ」


「店長が驚いたなら、きっとアルスくんも驚くかな」


「はっ! 大した女の子だ」


 ––––ギィンッ––––!!!


 またも響く甲高い音。

 アリサの瞳から発射された波は、今度も東風の神力を引き剥がした。


「ぐぅッ……!!」


 これだけでは済まない。

 無防備な大天使を滅殺する勢いで、アリサが近接格闘を仕掛けてきたのだ。


 たまらず呟く。


「君の愛は重いなッ……!! 重すぎるよ!」


「竜王級の彼女ならこれくらい! だってアルスくんは待ってるんだ、いつか自分を殴ってくれる存在を! 最強に比肩しうる存在を!!」


 後方へ下がった東風へ、逃がすものかと追撃が襲い掛かる。

 戦いの余波で地面はえぐれ、結界内に衝撃が何度もこだました。


「わたしはアルスくんの隣に立つ女です! いつだって彼を殴るために頑張ってきた! 出会った瞬間から、惚れた瞬間から、告白した瞬間から! 彼女になった瞬間からッ!!」


 歪んだ愛情と呼ばれるかもしれないが、知ったことか。

 この方法以外に、愛を伝える手段は持たないのだから!


「なるほど! 実に君らしい!」


 笑った東風が、指を鳴らした瞬間––––煙のように消えた。

 見渡してすぐに気づく、今まで殴っていたのは分身だと。

 本物は……!


「ここだよ」


 背後から届いた声に振り返ると、笑顔の東風が攻撃を繰り出していた。


「がっはっ……!?」


 神力を纏った蹴りが、モロにアリサの腹部へめり込んだ。

 込み上げてきた熱いものを吐き出すと、大天使の膝が吐血で真っ赤に染まった。


「終わったかな? ここまででも十分及第点だ、やはり君は素晴らしい才能を––––」


 言いながら気づく。

 さっきまでのアリサなら、この時点で髪の色がダメージによって元へ戻っていた。


 しかし今は、色も輝きも全く失っていない。


「ッ……!!」


 慌てて離れようとするが、時既に遅し。

 アリサの手が、大天使の胸ぐらを掴んだ。


「店長……!」


「なっ、何かな……?」


 東風は永年を生きて来て、久しぶりにゾッとする悪寒を感じた。


「歯を食いしばってくださいッ」


 ニッと笑うアリサの右拳に、尋常ではない量の魔力が集中した。

 食らったらヤバい、直感で気づいた東風はすぐに防御障壁を展開するが、


「あぁ……こりゃ、ダメか」


 そして、言う通りに歯を食いしばる事にした。

 全力全開––––魔壊竜アリサ・イリインスキーは、愛する彼氏にぶつける予定の愛を振りかぶった。


「滅軍戦技––––『暴虐の拳(クラーク・イズ・ジェストコスト)』ッ!!!」


 日も暮れた王都に、紫色の太陽が生まれた。

 瞬いた閃光は、しばらく光り続けた後……ゆっくりと消滅する。


 アリサVS大天使東風の戦いは、これが終結の合図だった。


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