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第379話・竜王級のお願いごと

 

「これはこれは……時刻通りだ、さすが王立魔法学園の生徒会長。時間を守る人間は好感が持てるよ」


 大使館の執務室に訪れた俺を迎えてくれたのは、この敷地のボスである元勇者––––ジーク・ラインメタル大佐だった。

 またこの方は、王立魔法学園の特別顧問でもある。


 戦闘術からアリサの件までお世話になった、リスペクトすら抱く超大国の強大な人物。


「アルト・ストラトスでは、列車やバスが定刻通り着くと聞きます。それに倣ったまでです」


「よく知ってるね、君は外国人の心を掴む才能があるよ。さすがは生徒会長––––ただの外交官では出せない言葉だ」


 満足気な大佐が、ソファーに座った俺へ紅茶を淹れてくれる。

 ミリシア産の、超高級茶葉だ。


「君くらいになると、紅茶やコーヒーの違いもきっとわかるだろうからね……。普段副会長に淹れてもらう物よりは低品質なことを理解して欲しい」


「ずいぶんご謙遜なさるんですね、美味しいですよ。とても……」


 カップを置く。


 挨拶はこれくらいにして、俺は早速本題に入った。

 今日バイトを休んでまで来た、大事な話だ。


「例のメッセージの件、ご検討いただけたでしょうか?」


「あぁ……もちろんだ、っと言っても。答えを言う前にまず疑問からだな」


 紅茶を一口飲んだ大佐は、そのままメガネ越しの碧眼をこちらに向ける。


「“勇者として、自分に本格的な稽古をつけて欲しい”。僕の目に狂いが無ければ……メッセージにはこう書いてあった気がするんだが?」


「その通りです、ラインメタル大佐––––俺はあなたに修行をつけて欲しいと前々からずっと思っていました」


「CQC(近接格闘術)はみっちり教えただろう? 銃の撃ち方や、各種テクニックまで……軍人として君にはあらゆることを教えたつもりだが」


「はい、確かに……“軍人としての大佐”からはたくさん学びましたね」


 ここまで言って、メッセージの意味を今一度飲み込んだらしい大佐。

 今度は威圧感を込めた瞳で、俺に語りかけてくる。


「イージスフォードくん、言葉の意味をわかって言っているのかね? それはつまり––––もう一度私に勇者になれと言うことだが?」


 凄まじい圧力。

 並の人間なら、目眩を起こして卒倒しそうな程の覇気。

 けれど俺も––––引く訳にはいかなかった。


「そうです、こと俺も魔力に関してはある程度極めたつもりです。しかし天使や勇者が使う『神力』に関しては––––まだ殆ど無知なんですよ」


「つまりこうかね? 君は来たる新たな敵性勇者や大天使に備えて。神力について知りたいと」


 俺は頷く。


「はい、大佐がどれだけ神や天使––––そして勇者という存在を忌み嫌っているかは察しています。ですが俺はこのままだと……きっと家族を守り切れない。後悔することになる」


 アイリが言っていた、王都を殲滅する新たな勇者。

 俺たちを理不尽に魔王認定して、ご都合的に葬ってくる存在。


 カルミナが持っていたフェイカーが外れだった以上、勇者に先手を打たれる可能性は非常に高い。

 なら––––


「別大陸の魔王を倒した、史上最強の勇者であるラインメタル大佐から……俺はまだ学ぶことがきっとあるんです。どうか––––お願いできないでしょうか」


 頭を下げるか迷ったが、俺は代わりに大佐の威圧感を放つ瞳をジッと見つめ続けた。

 ここで視線を外せば、俺に覚悟が無いと思われるかもしれないという……勘。


 だが、窮地の勘は見事に当たってくれたらしい。


 紅茶を飲み干したラインメタル大佐が、頬を吊り上げる。


「君は……私が出した目に見えない課題を全部クリアしたようだ、実に素晴らしい人材と言える。部下としてイージスフォードくんが来てくれればこれ以上ないのだがね」


「まだ学生ですよ?」


「構わんね、優秀な人材に歳など関係ない」


 立ち上がったラインメタル大佐は、首をゴキゴキと鳴らす。


「そうと決まれば早速始めよう、時間が無いから今日来たんだろう?」


 さすが勇者––––話が早い。

 俺と大佐は、カップを置いて外へ出た。


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