第378話・師匠と弟子の冬休み
前回のアリサのイラストが多くの好評を頂いたので、これに応じてとうとうミライの挿絵も近日追加を決定致しました!
楽しみにお待ちください。
「おぬしがおると、この家に色彩が追加されたようで楽しいわい」
––––温泉大都市ファンタジア、大賢者フォルティシア邸。
自作魔導具『ほっこり君5号』に足を入れた、大賢者ルナ・フォルティシアが呟く。
相変わらず見た目はとても可愛い幼女だが、これでも歳は最年長。
ユリアの師匠であり、ファンタジアの顔とも言うべき存在。
ちなみにこの魔導具は、ある日本人の客から依頼されて作ったもので本来は“こたつ”と言うらしい。
市販の魔力ボンベで稼働するため、非魔導士でも使えるのが売りである。
「わたしも、久しぶりに師匠とゆっくりできて嬉しいですよ」
台所から果物を切ってきたユリアが、お皿を『ほっこり君5号』の机上へ置く。
そのまま彼女も、ポカポカに温もった布団の中へ華奢な足をゆっくり入れた。
2人揃って、息を吐きながら落ち着く。
「時にユリアよ、アルスのやつとは上手くいっとるのかえ?」
梨を口に運びながら、フォルティシアは当然のように切り出す。
「し、師匠の前で言うのはちょっと恥ずかしいですが……まぁ一応」
「モグッ……なんじゃ? そろそろキスくらいはしたのか?」
「……はいっ、こないだ部屋に泊めた時に10回ほど」
「ブッフォ!」
挙げられた数字に、思い切りむせる大賢者。
拍子で倒れかけた『インフィニティー・ハルバード』を押さえながら、顔を赤面させる。
「へ、部屋に泊めただけでなく……10回じゃと!? さすがに進展が早すぎんか!?」
「えぇ……師匠から聞いたんじゃないですか。それに特別顧問のラインメタル大佐に聞いたら、普通のカップルだと2ヶ月でセッ※※まで行くらしいですよ?」
「セッ※※––––!!」
……おや?
ユリアは悟る。
ひょっとして、眼前の師匠は恋愛事に関してだと経験が無いのでは?
っとなるとこの分野では、自分の方が師匠より経験豊か!
少し優越感を持ったユリアは、自信満々で続ける。
「あと、大人のキスもしました!」
「それはもうセッ※※40秒前でやることじゃぞ!! おっ、おぉ……おぬしら! まさかもう子供を––––」
「流石にそこまでは行ってませんよ、アリサっちやブラッドフォード書記にも一言伝えないとセッ※※はできません」
「貴族令嬢がセッ※※セッ※※と連呼するでない! もう無し! この話はおしまいじゃ!」
顔を真っ赤にしたフォルティシアは、自分を落ち着かせるべく梨を口に放り入れた。
ついでに、ジュースも一気飲みする。
「ったく……、ワシの周りにいる奴はどうしてこう色恋沙汰が多いのじゃ。“片割れ”もこないだ手紙で結婚したとか抜かしよるし……」
「っ……前から思ってたんですけど、その片割れって誰なんですか? 師匠が昔に力の大半をあげた方としか聞いてないんですけど」
「ん? あぁ……まぁワシという存在のもう半分みたいなヤツじゃよ。ちょうど前のアルスみたいに理不尽に追放されて、戦場で散々戦って––––唯一全盛期のワシに勝った男じゃ」
「それは強そうですね、ぜひ手合わせしてみたいです」
「今度手紙に書いておくぞよ、弟子が会いたがっているとな。アイツも元はラインメタルの部下……戦闘は大好きじゃろうし」
皿の梨が半分ほど消える。
外は寒そうだが、フォルティシア邸は大賢者の改造により全館空調を行っている。
よって、過ごしやすいように薄着でも問題はない。
ショートパンツから出た足を伸ばしながら、ユリアも梨を頬張る。
「で、師匠……色々話はズレたんですが例の件。お願いできますか?」
眉をひそめた大賢者は、若干リアクションに困った様子で応じた。
「ワシは良いが……、もう今のおぬしに教えられる物なんて僅かじゃぞ?」
「えぇ、大丈夫です」
今一度姿勢を正したユリアは、背をピッと伸ばす。
「ルナ・フォルティシア師匠、改めて––––未熟なわたしに稽古をつけてください」




