第377話・アリサと天使、相容れぬ修行
「本当に僕なんかで良かったのかな? アリサちゃん」
噴水広場のある大きな公園で、ベンチに座った大天使東風は手に持ったアイスクリームを舐めた。
季節外れのスイーツを堪能する上司に、アリサは正面に立ちながら頷いた。
服装は動きやすい体操服。
紺色の上着にクォーターパンツ、ハイソックスとスニーカーを組み合わせた格好。
「当然ですよ、敵を倒すには敵を知れ……スパイ時代の教訓ですから」
「本人の前で言うセリフかなぁ……それ、まぁ良いけど」
「あっ、マズイ表現でした……? でもとりあえず稽古、よろしくお願いしますね!」
ペコリと頭を下げるアリサ。
本来敵である大天使との修行。
事ここに至った経緯としては、先日アリサがバイト中に東風の正体を看破したことが始まりだった。
ミライが血界魔装を極め、ユリアやアイリ––––そしてアルスに戦闘力で完全置いてけぼりを食らったこの現状。
これを打開する師として、アリサは現在殺し合うべき存在である大天使に教えを乞うことにした。
理由は単純である––––
「わたし、好きな人に努力してるところ……あんま見せたくないんですよね〜」
「君の性格上そうだよね……、けど女の子が強くなりたいと思った時って大体好きな人のためだし。一気に強くなった自分をかっこよく見せたい気持ちはわかるよ」
「さっすが店長、話が早くて助かるよ!」
言うが早いか、アリサの雰囲気が一変した。
銀髪は染めるように紫色へ変わり、瞳も同色を放ちながら強く輝く。
血界魔装––––『魔壊竜の衣』へ、変身したのだ。
「わたし、ミライさんやユリ……アイリ殿下より強くなりたいんです。そのためには天使だろうが誰だろうが、なんでも使うんで!」
「ハッハッハ! 良いね、さすがアリサちゃんだ! ミニットマンのヤツは竜王級にしか興味がないみたいだけど、僕は違う」
東風の金眼が輝くと、王都に巨大な魔法結界が展開された。
隔絶された空間で、天使はアイスを一口で食べ切る。
「僕は君に興味が湧いた、竜王級のために敵すら利用するハングリー精神。手段を選ばない––––実にキール人らしい発想だ」
「当然ですよ! だってわたし––––」
大きくジャンプしたアリサは、全力で拳を叩き落とした。
「愛情は拳で語るタイプなんでッ!!」
ベンチごと地面が弾け飛ぶ。
すぐさま顔を上にあげると、上空で純白の翼を広げる東風の姿。
改めて理解する、眼前の存在は果てしなく強大。
でもだからこそ––––
「学ぶこと、多そうですッ!!」
魔力を全開にしたアリサは、野獣のような笑みを見せた。




