第374話・フェイカー殲滅プラン
世界に名だたる先進4カ国同盟たる『連合王国同盟』。
中でも創設以降常にそのトップにあり、GDP、軍事、技術力において他と一線を画す超大国––––アルト・ストラトス王国。
溢れる国力を現すがごとく、今日もミリシア王都の大使館は堅牢にそびえ立っていた。
だが豪勢な上部構造物とは裏腹に、ここの地下はまさしく軍事施設と化している。
「全員揃ったな? では始めよう」
“地中貫通爆弾”にも耐えられる地下作戦ルームで、在ミリシア––––アルト・ストラトス大使のゼムールは椅子に座った。
顔ぶれは様々。
大使を始め、王国対外情報庁、外務省、海洋大気庁、運輸省、そして国防省が揃っていた。
U字型に伸びた机の正面に、パッと巨大モニターが表示される。
それは世界地図––––、まさに超大国の影響が届く全ての範囲だった。
「これより対天界対抗協議を開始する、進行は君に任せて良いんだね? ジーク・ラインメタル大佐」
ゼムール大使の向いた先に座っていたのは、黒色基調の軍服を纏った金髪の軍人。
元勇者にして、ミリシア駐在武官を務める男だった。
「お任せください大使、今日をもって我々の対天界プランは大きく前進致します」
「君が言うなら間違いないだろう、早速だが––––報告したまえ」
「では」
目の前のタブレットを操作した大佐は、大画面モニターに映像を同期させる。
画面には、世界経済を支える海上航路がいくつも映し出された。
「昨今のグローバリズム政策推進により、我が軍は全世界のあらゆる物流を監視しております。膨大な数の偵察竜と艦艇を用いて……」
画面に現れたのは、アルト・ストラトス海軍艦艇を現す符号。
駆逐艦以上のみの表示にも関わらず、総数にしておよそ600隻を軽く超えていた。
艦隊の担当区画ごとにセクター化されており、ズーミングされたのは第7艦隊エリア。
ミリシア王国を担当する部隊だ。
「先日、ミリシア南方諸島を監視していた第6駆逐戦隊が不審な貨物船を発見––––陸戦隊が突入し、これを拿捕しました」
「拿捕と言ったか? その船の船籍はどこなのかね?」
若干焦った様子の大使が、急かすように乗り出す。
しかしラインメタル大佐は、想定内のリアクションとでも言うように顔を上げた。
「拿捕された貨物船はミリシア国旗を掲げていましたが、当該船舶はキール共和国の物と判明しました。つまり偽装船舶です」
大佐の隣に座っていた外務省高官が、汗を拭く。
「大使……今船籍は問題じゃないでしょう、ラインメタル殿。その貨物船の積荷を教えてもらえますかな?」
「はい高官殿」
映像が重ねられる。
何枚もの写真が出され、映ったいずれも山積みになった石ころだった。
察しのいい対外情報庁の若者が、腕を組む。
「人工宝具……、フェイカーですか」
「その通りです。偽装船舶は鉄鉱石と称して、フェイカーを大量に運んでいました。行き先は––––」
地図が1つの国をズームした。
運輸省高官が呟く。
「ヴィルヘルム帝国か……」
「さすが運輸省、その様子ですと既にご存知でしたかな?」
「カマを掛けないでくれ大佐、ヴィルヘルム帝国は未だ中立を保った不安因子だ。それにこんな話……既に結論ありきの規定路線だろう。ねぇ大使殿?」
「えっ? あっ、あぁ……!」
戸惑う様子を見せる大使に、皆一様に思う。
二世のこいつは所詮立場だけの無能、だから大使館の実質的な権限をラインメタル大佐にガッチリ握られているのだと。
だがそんな空気すら見越した大佐は、何食わぬ顔で続けた。
「運輸省の言う通り、まぁここまでは規定路線です。問題は……一部のフェイカーが既に大陸へ密輸された事実です」
「運輸省として問う、国防省はそれを追跡できているのかね?」
「完璧ではありませんが程々に……、ヴィルヘルム帝国を通してミリシアへ運ばれたと見るのが妥当です」
「では公表しましょう大使殿、このフェイカー輸送は間違いなく天界の大天使共が絡んでいる。ミリシア国民にはもっと危機感を抱いてもらわないと」
口調を早めた運輸省へ、対外情報庁が手で制す。
「やめた方が良いかと、ついさっきも大規模な魔法結界の展開をレーダーが捉えました。規模から言って伝説の竜王級の仕業でしょう……、きっと秘密裏にフェイカー回収を行ったかと」
大使館には、高性能多次元干渉レーダーが装備されている。
これにより、先ほどのカルミナとの戦いはしっかりと観測されていた。
「では、フェイカー回収はミリシア人に任せるという方向ですかな? 外務省としてはその方がありがたいですけど」
映像が再び、南方諸島へ移る。
ラインメタル大佐がピックアップしたのは、近くに集結しつつある海軍艦隊だった。
数にして、70隻を超えている大艦隊だ。
「王都やその他大都市は、竜王級たちに任せましょう。そしてこれは––––参謀本部からの通達です」
大佐が整った顔を上げる。
「年が明けた1月4日、離島にあるフェイカー生産工場を第7機動艦隊が全力をもって叩きます。拿捕した貨物船の航路から位置も特定できました……今が最大のチャンスです」
「敵の抵抗は予想されるか? 大佐」
「えぇ大使、だからこそ超弩級戦艦を20隻も集めたのですよ」
国家の国力は、保有する戦艦や空母の数でも測れる。
ミリシアなどの先進国ですら、超弩級戦艦は4隻しか保有していない。
それを本国から遥か数千キロの海域に、これだけアッサリ集結させられると言うのはまさに驚異だった。
「フェイカー工場撃滅に際しては、また別途資料をお配り致します。そして––––ここからが本題となります」
部屋の防音をチェックし、高官や大使の前でジーク・ラインメタル大佐は遂にその言葉を放った。
「神話に記されし大天使たちの住処。【天界】のおおよその位置が––––先日判明致しました」




