第373話・1分で王都の瓦礫に沈めてやるわ
せっかくアリサのイラスト載せたのに、なかなかアリサ回が書けない……。
「竜王級……!!」
忌々しげに俺を見上げるのは、正真正銘––––元近衛大隊長のカルミナだった。
首元の人口宝具を見るに、こいつもグリードたちと同じ道を選んだらしい。
全く、ため息が出るな……。
「あなたの登場は予想外だったけど、残念だったわね。わたしはもう以前までのカルミナじゃない」
立ち上がった彼女は、どこか余裕めいた表情で胸元を触った。
念の為だ、一応聞いておくか……。
「ほう、カルミナじゃないのか?」
「そうね、違うわ」
「なら一体お前は誰なんだ?」
「フンッ……わたしはね」
剣を持たない左手を顔近くに持ってくると、親指で自らを指した。
「”インフィニティー・カルミナ“よ」
思わず口が半開きになる。
言いたいことは色々あるが、
まず名前が究極にダサい、武器ならともかく自分の名前に”インフィニティー“とか付けちゃう時点で恥ずかしさを限界突破しているのに、そこへ力の源は贋作と来た。
恥ずかしさのダブルタップだ。
もうここまで来ると、イキリ度合いが高すぎて共感性羞恥すら覚える……。
「竜王級、わたしはあなたを1分で王都の瓦礫に沈めて見せるわ」
さらにこのドヤ顔である。
人間、いきなり力を持ってしまうとこうも理性が行方不明になるんだな……。
地面に降りた俺は、瓦礫の中から手頃なスコップを見つけた。
しゃがんで手に取る。
「スコップ……? 限界突破したこのわたしを舐めているの?」
「別に舐めてねぇよ、確かに今のお前は魔人級魔導士クラスのステータスだ。でもな––––」
『身体能力強化』へ変身。
俺の全身を金色のオーラが激しく包み込んだ。
苛立ちを隠さずに、俺は告げる。
「力は持っただけじゃ、強くなれないんだよ」
「減らず口を! 今黙らせてやるわ!!」
宝物庫の時とは比べ物にならない速度で、カルミナは攻撃を仕掛けてきた。
光る剣筋を、魔力強化したスコップで受け流す。
カルミナの剣舞は周囲に衝撃波をもたらし、結界内の建物を無差別に破壊していく。
確かにパワーもスピードも凄い。
一撃で街の一区画を吹っ飛ばしただけはある。
だが––––
「あなた……! 全然本気を出してないわね?」
一度距離を取ったカルミナが、苛立たしげに俺を睨む。
やはり鈍い……、フェイカー使用者の共通点だ。
「言っただろう、力は持っただけじゃ––––」
言い終わる前に、肉薄したカルミナの剣が俺の首へ直撃した。
鉄筋すら切断する一撃に、彼女は笑みをこぼす。
だがその笑みも、すぐに消え去った。
なんせ、全力で振られた剣は俺の首元でピタリと止まっていたからだ。
「強くなれない、だろう? ”インフィニティー・カルミナ”?」
『身体能力強化』のオーラだけで防がれ、刃はボロリとこぼれ落ちる。
ここへ来て、ようやく実力差に気づいたらしい。
剣を下げ、口をあんぐりと開けながら呆然としていた。
「わ、わたしの渾身の力を込めた剣撃が……っ」
「さっきまでの勢いはどうしたよ、来ないなら––––」
地を蹴り、空気を切り裂きながらスコップをカルミナの胸へ叩きつける。
骨が砕け、内臓に深刻なダメージを与えた。
「こっちから行くぞッ」
「ゴッハッ!?」
ボールのように吹っ飛んだカルミナは、いくつもの家を貫通してようやく地面に転がった。
全力疾走して追撃した俺は、ヤツの直上へ飛び上がった。
「人が一歩大人になろうとした瞬間に来やがって、その身を持って––––」
「ガッ……、やめっ」
変身のパワーを全開へ。
断頭台のギロチンが如く、俺は回転しながら踵を叩き落とした。
怒りを、憤りを、憤怒を、慟哭を込めて––––
「思い知れェッ!!!」
後頭部へ直撃した一撃は、カルミナの顔面を地面へ激突させた。
爆音と共に、ヤツの首から下が石畳をぶち抜いてめり込む。
衝撃波が発生し、地面に巨大なクレーターとひび割れを発生させた。
立ち上がり、周囲を見渡す。
「ミライ、そっちはどうだ?」
聞いた瞬間、眩い爆光が結界内を照らした。
馬鹿げた出力の雷撃が、超高密度で広範囲に降り注いだのだ。
しばらくして、瓦礫を乗り越えてきたミライが俺の側に立つ。
「終わったー、尋問用に1人軽傷に留めといたけどどうする?」
「大丈夫だ、情報は……“インフィニティー・カルミナ”さんに聞くとしよう」
気絶したカルミナの足を掴み、地面から引っこ抜く。
念の為、首元のフェイカーは取り上げた。




