表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

372/497

第372話・勇者騎士団

 

「総員配置に着きました、カルミナ様!」


 夜も深くなった王都。

 民家の屋上––––ブラッドフォード家を囲む形で何人もの男たちが立っていた。


 総数にして30人あまり……一際高い家の屋上で報告を受けていたのは、紺色の鎧を身に纏った女。


 先日、王城宝物庫でアルスに完敗し、不正を暴かれ王女によって追放された騎士。

 元王国近衛大隊長––––カルミナ・レジンゲートだった。


「竜王級の彼女––––その1人がここに住んでいる、確かな情報なのよね?」


「はっ、我らが唯一神を愚弄した王立魔法学園の一員。アーシャ様からは既に無制限無差別攻撃の許可が出ております」


 報告をした男の胸には、月明かりに光る石が下げられていた。

 彼だけではない、周囲を取り囲む男達全員がそれらを装備していた。


 無論––––カルミナ本人も。


「勇者アーシャ様より頂いたこの力、これさえあれば今度こそわたしを愚弄した竜王級に……本当の絶望を与えられるわね。とても楽しみだわ」


 全員が付けていたのは、装備すれば誰でも強力な魔導士になれる人工宝具。

『フェイカー』だった。


 それもただのフェイカーではない。

 ほぼ全員がエルフ王級相当の力を宿し、カルミナに至っては魔人級魔導士と同レベルの物を持っていた。


「アーシャ様を筆頭とする『勇者騎士団』の初陣よ、派手に行こうかしら。悪いわねベリナ––––今日で決着ついちゃうかも」


 顔を笑みで歪めたカルミナが、剣を抜いた。

 刃に神々しい光が宿り、膨大な魔力が収束していく。


「わたしを追放した恨み……、恋人の死でもって償ってもらう!!」


 カルミナが両手で剣を振り下ろすと同時、凄まじい衝撃波が発生した。

 射線上にあった木組みの家々を薙ぎ倒し、ブラッドフォード家に関しては骨組みも残らず吹っ飛んだ。


 轟音と煙が走り回り、後に残ったのは大災害の事後とでも言うべき惨状。

 瓦礫群を見下ろしながら、カルミナは笑いを堪えきれず噴き出す。


「あっはっは! こんな簡単に強くなれるなんて、フェイカーって最高ね。真面目に鍛錬してる人間がバカみたい!」


 無能のコンプレックスなんて、もう気にする必要もない!

 真面目なバカを差し置いて、自分は究極の力を手に入れたのだ。


「近衛なんてゴミだったわね、アーシャ様率いる『勇者騎士団』こそ次代のメインストリートよ」


 周囲の男達も、ケタケタと笑う。

 完全に不意を突いた奇襲、竜王級は翌朝に無惨な姿となった恋人を見て絶望するに違いない。


 高笑いしたカルミナは、興奮して全く気づいていなかった。


「えっ?」


 空の模様が変わっていることに。

 見渡せば、王都の広範囲を巨大な『魔法結界』が覆っていた。


「まさかッ……!!」


 雲を裂いて眩い閃光が走った。

 上空から突如降った”金色の雷“が、瓦礫と化したブラッドフォード家の中心に落下したのだ。


「総員けいか––––!!」


 叫んだ男の1人が、イカヅチの槍で貫かれた。

 断末魔を出すこともできず、屋根から転げ落ちていく。

 今一度目をやると、瓦礫の中央に1人の少女が立っていた。


「ッ!?」


 悪寒が走る。

 大気が強い静電気で溢れた。


「よくも人様の家を、よりにもよって––––よりにもよって!! 一番大事な時間に消し飛ばしてくれたわね!」


 全身に激しいスパークを纏い、露出した肌には幾何学な紋章が浮かぶ。

 髪はシャンパンゴールドへ変貌し、瞳もエメラルドグリーンに。


「絶対許さないんだからっ!!」


 血界魔装––––『雷轟竜の鎧』へ変身したミライが、激昂に満ちた目で見上げる。

 極まり切った竜の力を前に、勢いづいていた勇者騎士団もたじろぐ。


 奇襲はバレていた、それだけでも想定外……。

 だがなんだあの姿は、あまりにもパワーアップ倍率が常識を外れている!


「狼狽えないで! 相手はガキ1人よ! 最高位のフェイカーで武装したわたし達の敵じゃない!」


 言いながらカルミナは目を丸くする。

 眼下で立っていたはずのミライが、予備動作なしで消えたのだ。


「ガァ!?」


「ぎゃあっ!!?」


「ああァアアッ!!」


 背後を振り向く。

 屋根上で魔法の発射準備をしていた騎士たちが、あらゆる方向から発射された雷撃によって焼き焦がされたのだ。


 いや……同時ではない、あまりにも速すぎるスピードのミライが、1人1人にペン型魔法杖をぶち当てていたのだ。


「このガキ!!」


 氷、炎、岩石攻撃。

 様々な魔法が飛び交うが、決して当たることはない。

 血界魔装の鎧へと進化したミライに、もはやエルフ王級魔導士では束になっても敵わない。


 唯一対抗し得るクラスは––––


「お前も懲りねーな、エセ近衛大隊長」


 冷や汗が背筋を流れた。

 ありえない、そんなはずはない。

 ヤツがここにいるなんて––––


「インチキ野郎、現実を見ろよ」


 振り返った瞬間、頬がぶん殴られた。

 凄まじい勢いで吹っ飛んだカルミナは、瓦礫に激突する。

 こんな芸当ができるのは……。


「勇者とか言ってたな? その話––––詳しく聞かせてもらおうか」


 世界最強の魔導士。

 竜王級アルス・イージスフォードが、不気味な笑みを浮かべていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ