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第369話・突撃、ブラッドフォード家!

 

「なんでお前の母親の怒号を、俺も一緒に浴びにゃならんのだ……」


 日もすっかり沈んだ街並みを歩く。


 学園から帰る道すがら、俺は隣りを歩くミライに思ったことを漏らした。

 一方の彼女は、どこか切羽詰まった様子で俺を見上げる。


「うっさい、彼女の言うことには黙って従う! 大体一部はアンタのせいでもあるんだからね」


 怒りというには程遠く、どちらかと言えば諦めに近い語気で声が響く。

 っというのも、彼女の言うことに間違いはない。


 アイリの話が終わり、王城に帰ったのを見送った頃––––1つのメッセージが、チャットアプリの『ロイン』へミライ宛に送られてきたのだ。


 差出人は“ミライの母“、内容は。


『ミライへ、ここ数日で一体何着の制服を駄目にしたか分かりますか? 帰ってきたらお母さんから大事な話があります』


 っという、非常に恐ろしい文面の物。

 これを読んだミライはその場で顔面蒼白となり、俺とユリアが説得するまで学園に泊まるなどと喚いていた程だ。


 確かにミライは、ルールブレイカーとの決戦で1着。

 アイリとの初邂逅で1着。

 俺との公式戦で1着。

 さらに2回目のアイリとの戦闘で1着。


 計4着もの量を短期間の内にボロボロにしてしまった。


 王立魔法学園の制服はかなり高価なため、こんな頻度で買い替えていては確かに母親が怒るのも無理はない。


 ってなわけで、俺も付き合っての謝罪に向かうところだった。


「そういえばミライ、アリサには今日の話伝えたのか?」


「まっさかー、さすがにあんな話をアプリ上ではできないわよ。大事な話があるから明日直接言うって伝えたわ」


 今日はバイトだし、無難か。

 でもアイツが朝に言ってた「インフレに置いてかれてる」って言葉……。


 正しく解釈するなら、多分“そういうこと”だよな。

 アリサのヤツ……、また変な無茶しなきゃ良いんだが。

 なんて思案しつつ、俺は話題に戻った。


「それが良いな、でもまさか同じ寮のユリアが頼れないとは思わなかった……」


 そう、なんとユリアは明日の朝から温泉大都市ファンタジアへしばらく泊まりに行ってしまうのだ。

 師匠であるフィルティシアさんに神器を渡しに行くのと、元から冬休みに彼女の家で泊まる予定があったらしい。


 師匠と弟子で、久しぶりにゆっくり過ごすのだろう。


 なので、王都での魔導士モドキ探しに残念ながらユリアは参加できない。

 その代わりに、こっちじゃなくファンタジアで魔導士モドキを捜索してくれるらしいが……。


「…………っ」


「おい、さっきからずっと無言だが大丈夫か?」


「今必死で言い訳考えてる……」


「俺も一緒に頭下げるよ、まぁ最悪お前のバイト代は徴収されるだろうけど」


「そだよな〜……っ」


 ガックリと肩を落とすミライ。

 そういえばこいつの母親には、恋人になってから1度も会ってなかったな。


 以前は少し会ってたが、それもずいぶん前だ。

 ヤバい……俺も今さらながら緊張してきた。

 しかし歩みは止めていなかったので、あっという間に目的地へ着いてしまった。


「……着いたな」


「着いちゃったわね……」


 2人して、扉の前で固まる。


「おい、鍵開けろよ」


「待ってアルス、やっぱ今日はアンタの家に泊まらせて––––」


「ダメだ、大人しく首差し出すぞ」


「ウゥ……ッ」


 遂に観念したのかミライは鞄から鍵を取り出し、穴へ差し込んだ。

 ロックの外れる音が鳴り、扉が開く。


「ただいま〜……」


 弱々しい声が玄関を渡ってすぐ。

 奥から1人の女性が姿を現した。


「お帰りミライ、あと……アルスくん?」


 エプロン姿の女性は、比較的若いいで立ちで……さながら大人になったミライと言える風貌。

 “日本人”らしい黒髪を下げたこの人こそ、ミライの母親だ。


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