表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

365/497

第365話・突然の訪問客

 

「ちょっ! アイリ様!? なんで学園に……ッ!?」


 生徒会室に入るや、事務仕事をしていたミライがペンを落としながら思い切り仰け反る。

 向かいに座るユリアも、目をパチクリさせて驚いているようだった。


 そりゃそうか、雪かきしに行ってたヤツがこの国の第一王女を連れて戻って来たのだから。


「どうもミライさん、ユリアさん。お邪魔致します」


 丁寧にお辞儀するアイリを見て、即座に来客用の紅茶を準備しに掛かるユリアはさすが副会長。

 ミライが片付けた席に連れていくと、アイリは周囲を見渡しながら腰掛けた。


「ここが生徒会室……、初めて来ました」


「王女を入れたのは俺たちも初めてだよ……、まぁくつろいでくれ」


 アイリの正面へ座った。

 ポットから紅茶を注いだユリアが、慣れた手つきでカップを机に並べていく。


「アイリ様、何故(なにゆえ)今日は学園へ? もう師匠の宝具は返してもらいましたが……」


「あー……、ちょっと皆さんに報告をしたくてですね。えっと、とりあえず紅茶を頂きます」


 緊張しているのか、ぎこちない様子で紅茶を口につける。


「ッ……! 美味しい。これユリアさんが淹れたんですよね?」


「はい、ここではいつも会長に淹れてますので」


「さすが天才と名高いエーベルハルト家のご令嬢……、湯の温度管理も茶葉も、相手への配慮が凄く行き届いてます」


「ありがとうございます、王女殿下に誉められたとあれば––––この上ない名誉です」


 嬉しそうに微笑むアイリ。


「アルスさんは幸せ者ですね、毎日こんな美味しいものを飲んでるなんて」


 再びカップに口をつける。

 なんだろうな……、つい先日までバチバチに戦っていた怪盗改め王女様が、生徒会室でくつろいでいるのに空気は和やかだ。


 でも考えてみれば当然か、ユリアだって最初は殺気を向け合う敵だったのだ。

 それが今や一番甘えてくる彼女。


 人間関係なんて、いつどうなるかわからないのだ。


「ところでアイリ様〜、報告ってなんです?」


 俺の隣に座ったミライが、早速本題を持ち出す。

 紅茶を飲み終わったアイリが、美しい動作で居住まいを正した。


「報告……っと言うかまず謝罪なのですが、先日はアルスさんに不快な思いをさせてしまいました」


 深々と頭を下げるアイリに、思わずこっちも動揺してしまう。


「おいおい謝罪って何のだ? 俺たちを襲った件は王城で散々謝ってたじゃないか」


「いえ、そちらではなく……元近衛大隊長のベリナとカルミナのことです」


 ここでようやく、俺の頭の中で合点がいく。


「アイツらか、倒した後宝物庫に放置しちゃってたけど……」


「はい、その2人です。アルスさんの仰った通り……ベリナもカルミナも本来の経歴は、とても近衛大隊長に相応しくないものでした」


 やっぱ不正だったか。

 まぁ厳密には俺じゃなく、ノイマンが暴き出した情報だがここは黙って続きを聞く。


「聴取の途中、夕食会でアルスさんに揃って暴言を吐いたことを確認しまして。賄賂による不正出世に加え、国の恩人たる貴方にまで許されざる蛮行を……本当に申し訳ありません。ここにわたしが代わって謝罪致します」


 またも深く頭を下げるアイリ。


「別にもう気にしてないから、顔上げてくれ。国家の要人様にそんなことされちゃ俺が困る」


「ですが……! 不正人事を許したのはわたしの落ち度。2人には既に近衛籍剥奪処分を下しました、アルスさんには……今一度謝罪を」


 近衛籍剥奪……っということは、実質追放か。

 あまり言いたくないが、相応しい最後だろう。

 とりあえずこの件はこれで良し、王女様には顔を上げてもらう。


「で、アイリ。その様子だともう1つ話があるんじゃないか?」


「はい、その通りです」


 話を切り替えて、アイリを謝罪モードから突き放す。

 これ以上、クズのために彼女の頭を下げさせるわけにはいかない。


「えと、アリサさんはいらっしゃらないんですか?」


「アリサならバイトで早く帰ったよ、もう学園にはいない」


「そうですか……、できれば生徒会の全員に聞いてもらいたかったのですが」


「後でわたしがチャットアプリの“ロイン”で伝えとくわよ、もしくはエーベルハルトさんが部屋近いし、問題ないんじゃない?」


 ミライの言葉に納得したようで、アイリは指を目と同じ位置に掲げた。


「……わかりました、では」


 アイリが指を鳴らすと、部屋全体を防音魔法が覆った。


「王立魔法学園生徒会の皆様に……、改めてお願いがございます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ