★第363話・アリサの助言★
お待たせしました、本話はアリサのフルカラー挿絵付き回です。
––––12月28日。王立魔法学園生徒会室内。
外には白銀の雪が降り積もる……。
冬休みも真っ只中に突入したこの頃だが、俺はずっと1つのことを思案していた。
「技……っ、新技……。あるとしたらなんだ?」
そう、一丁前に宣言して見せた新技開発の件だ。
割と勢いで言ってしまったものの、いざ考えるとなるとなかなか思いつかない。
必死に頭脳を働かせ、該当するものがないか脳内リサーチを掛ける。
「あのー、アルスくん……?」
能力強化系、いや……既にブルー・ペルセウスがある以上さらに重ね掛けはできない。
っとなるとフィールド支配系? いや、ああいうのは精神魔法とか得意で器用なヤツがすること。
俺向きではない……。
「ちょっとー、アールースー君ー?」
何か、何か––––
「アルスくんってば!」
聞き慣れた声が脳を叩いた。
ハッと顔を上げれば、すぐ目の前にクリっとした青目が映る。
「おっ、やっと帰って来たね?」
腰を屈め、清廉な銀髪を下げたアリサが不思議そうな顔をしていた。
「あぁスマン……、ちょっと考え事してた」
「珍しいね、アルス君がそんなに悩むなんて。なに? 新技開発?」
立ち上がるアリサ。
「そんなところだ、でもなかなか思いつかなくてな。まるで迷宮を彷徨ってる気分だ」
椅子に座り直した俺へ、アリサから書類の束が渡される。
俺はしばし見つめて––––
「なんだこれ」
「なんだこれ? じゃないよっ! 二学期に使った部活動費の総額! アルス君のサインがいるの!」
「す、すまん……! 今目を通す」
ペンを片手に、アリサが仕上げてくれた予算案を読んでいく。
ッ…………。
「なぁアリサ」
「えっ、どこか間違いあった?」
「いや、特に表記ミスとかは無い。ただ聞きたいことがあって……」
「おやおや〜? アルス君がそう言うなんて珍しいですな〜。いいよ何でも聞いてごらん? スリーサイズでも何でも教えてあげよう」
自信満々な顔が妙に可愛い。
スリーサイズはさておき、俺はかねてよりの疑問を聞いてみた。
「俺……力不足かな?」
「…………は?」
「何だよそのリアクション、何でも聞いて良いと言ったのはお前だぞ」
「いやいや……アルス君さ、それマジで言ってる? 冗談だよね?」
「失礼だな、マジだよ」
書類にサインを入れ、どこか引き気味のアリサに手渡す。
「これから更に強いヤツが襲ってくるかもしれない、その時に俺は今のままで良いのかと思ってな」
「いやこれ以上強くなるってどういう……、まぁそういう謙虚なところも一応好きポイントだけどさ」
書類を机に置いたアリサは、俺から少し距離を取った。
表情が緩む。
「わたしは君を弱いと思ったこと––––1度も無いよ。初めて会った時から、君はわたしの超えるべき絶対目標。恋人であるのと同時にね」
「そうだったな、お前……俺を超えるのが目標だったっけ」
「うん、っという訳で––––」
アリサの全身から魔力が溢れ出た。
「今から君を全力でぶっ飛ばします」
「……は?」
「フフン、初めて会った時から察してたでしょ? わたし––––友情も愛情も」
床を思い切り蹴ったアリサは、少し悪いニッとした笑顔を向けながら俺へ肉薄する。
そのスピードは凄まじく、前回の反省からか俺に銃を取り出す暇は与えられない。
「拳で語るタイプなんだ」
ツーサイドアップの銀髪がなびき、端正な顔と青目が俺にロックされる。
あまりに楽しそうに拳を振る姿は、まさに好敵手を見つけたハンターのよう。
端的に言ってとても美しかった。
「だあぁッ!!」
回避不可能の一撃。
俺は椅子を蹴るように立ち上がり、両手でガッシリと正面から受け止めた。
衝撃波が背後の窓を揺らす。
華奢な見た目とは裏腹に、凄まじいパワーが俺の手を痺れさせた。
「ッ……!」
「悩むなんてらしくないよ、君は生徒会長でしょ? わたしの彼氏ならもっと毅然としてもらわなきゃ」
「あぁ……そうだな、おかげで吹っ切れたよ。ナイスパンチ」
「どーも」
聖人のように顔を綻ばせたアリサは、拳を引っ込めた。
「でも課題はわたしもたっぷりだな〜、王城での戦いで思い知ったよ」
「課題?」
疑問符を浮かべた俺に、アリサは書類を束ねながら答えた。
「––––わたしだけインフレに置いてかれてる」
それだけ言い残し、アリサは部屋を出て行った。
俺は自分の浅はかさと、配慮の甘さを今更ながら呪う。
「気使わせちまったな……」
ああ見えて、彼女は昨今の王城決戦で殆ど戦うことなくアイリにやられてしまったのを、かなり気にしている。
真に悩んでいたのは彼女の方だったのだ。
「今は……こんなささやかなことしか出来ないけど」
確か今日は、午後からいつものメイド喫茶でバイトだと言っていた。
俺は壁に貼られた掃除当番表––––この天気だと雪かき係を、アリサから自分に変えた。
「お前なら、いつか俺に一発お見舞いできるよ」
イラスト作:篁天音様。
良かった方は「いいね」、もしくは「感想」で反応をくださると嬉しいです!
もし好評なようであれば、次はミライの挿絵が出来るかもしれません。




