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第362話・義妹の涙とアイリの想い

 

 王城での戦いから一夜明け、俺たちは特に罪を負うことなく城を出ることができた。


 “国家ぐるみの犯罪は罪にならない”とはまさにその通りで、俺が宝物庫を襲った件もアイリとマスターのおかげでチャラになった。


 最も––––それは事態が急を要したからだ。


「カレン……一体何があった」


 探求都市スケルツォの病院内、俺は見た目だとほぼ無傷の義妹––––カレン・ポーツマスが座る椅子の横に腰掛けた。


 彼女の率いるギルド、ドラゴニアが壊滅したとの報は俺たちを激震させた。

 強豪ひしめく冒険者ランキング––––その1位に君臨する王者が、生半可なことで負ける筈がない。


 理由を知るため、みんなと別れて超高速で飛んできた俺がカレンを見つけたのはつい数分前のこと。

 まずは大事な義妹の無事を確認して安堵したが、同時に疑問も湧いた。


「お前たち程のギルドが壊滅した相手……、何者だった」


 俯いていたカレンが、そのままの状態でポツリと呟く。


「…………わからない」


 小さな体が小刻みに震え出した。


「わからないっ……! わからないよお兄ちゃん!!」


 嗚咽に近い声が、病院中に響いた。

 普段カレンが俺を“お兄ちゃん”などと絶対呼ばないことから、今どれだけ取り乱しているかがすぐにわかる。


「わたしも皆んなも……全力で戦ったッ……! なのに、“アイツ”はただ薄気味悪く笑うだけで全く通じなかったッ! あんなのにどう勝てってのよ!!」


「落ち着けカレン、病院だぞ!」


 パニック状態のカレンを、抱き寄せることでなだめる。

 これ以上聞くべきか一瞬問答するが、俺は頭を撫でてやりながらトーンを落としつつ喋った。


「大丈夫だカレン、今は俺がいる……。どんな怖いやつが来てもぶっ飛ばしてやる。だから1回深呼吸して、落ち着いてからで良い……ゆっくり教えてくれ」


「……ホント?」


「本当だ、俺がどれだけ場数を踏んでるか……お前だって知ってるだろ? お兄ちゃんに教えてみろ」


「守ってくれる……?」


「あぁ、お前をこんな目に合わせたクソ野郎の顔を知りたい。言ってみろ––––俺が行って叩きのめしてやる」


 カレンの息遣いが落ち着いていく。

 数度深呼吸した彼女は、俺に体重を預けながらゆっくりと口開いた。


「野郎じゃない……女だった」


「女……?」


 次の瞬間、カレンは深夜に王城で聞いたあの名を口にした。


「天使……、自分のことを大天使ミニットマンって言ってた。小柄で青髪で……ゴスロリなドレス着てる。ちょっと可愛かった……でも––––」


 カレンの呼吸が再度荒くなった。


「悪魔みたいだった……! みんなの魔法も、わたしの滅軍戦技も笑顔で受けて……無傷だった。完全に遊ばれたっ、宝具も全部奪われて、わたし––––」


 そこまで言ったカレンを、俺は強く抱き締めてやる。

 心の中に……ドス黒い怒りの感情が沸騰した。


「よく教えてくれた……ありがとう、もう思い出さなくていいぞ」


「グッ……フグッ、エグッ……! ッエエェェエエエ……!」


 泣き出すカレンが落ち着くまで、俺は強く……守るように抱きしめ続けた。

 ミニットマン、やはりヤツの狙いは宝具。


 滅軍戦技が効かなかったということは、カレンが血界魔装に変身して尚歯が立たなかったという意味でもある。

 しかも実力の殆どを出さずに……。


 明らかにスカッドやレイとは、次元からして違うと見ていい。

 やがて泣き疲れたカレンは、今まで寝ていなかったのか徐々に寝息を立て始めた。


 俺は日も暮れ始めた頃、膝にある彼女の頭を撫でながら呟いた。


「生徒会の皆んなも必死に頑張ってる、ミニットマンを倒すには……きっと既存の技じゃ通じない。なら––––」


 カレンの涙。

 アイリの想い。


 奇しくも重なったそれらは、俺に1つの答えを出すに至らせた。


「俺もそろそろ新しい魔法、練習するか……っ」


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