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第361話・闇の同盟

 

「……どうやら、騒がしかった王城の決戦も終わったらしい」


 人気の無い路地で、暗い壁に背を預けた金髪碧眼の男はメガネを触る。

 彼は名を、ジーク・ラインメタル大佐。


 超大国アルト・ストラトスの陸軍大佐にして、大使館付き駐在武官を務める元特殊部隊長。


「お転婆な怪盗はお縄になったと見て良いだろう、まぁ相手が王立魔法学園の生徒会では致し方あるまい。なぁ––––東風くんよ?」


 大佐が視線を向けた先。

 街灯の光も届かない闇から、1人の男が出てきた。

 ウェーブの掛かったピンク色の髪と、“金色の瞳”が特徴的な彼は……あくまで飄々とした態度で返答する。


「良いじゃないか、この国は王女が怪盗になれるくらいは余裕なんでしょ? さすが我ら天界に戦線布告しただけはある」


 大天使東風は、大佐の前まで来ると足を止めた。


「そんなことよりもだ、僕は君がキチンと約束を守ってくれるかどうかの方が気になるね。ラインメタル?」


「せっかちは嫌われるぞ?」


「それは困るなぁ、天使は好かれる事こそ仕事なのに」


 いかにもと言った様子で、頭をかく東風。

 少しの時間が経過し、ラインメタル大佐は足元に置いてあったケースを取ると、暗闇の中で頬を吊り上げた。


「ここに君の望む物が入っている、私と君の同盟––––その記念すべき関係強化の品だ」


「……信じて良いのかい? 僕は君のこと全く信用してないけど」


「信じないなら焼き払えば良いだろう、だが君は絶対しない。何故なら……それは果てなき“夢”から遠のく悪手だからだ」


「っ、これだから合理主義の悪魔は怖いね……」


「仮面をかぶった天使ほどじゃないさ、どうする? 受け取るのかい?」


「もちろん受け取るよ、君は既に前金も支払ってくれたしね」


 ケースが大天使の手に渡る。


「ありがとうラインメタル、助かるよ」


「礼ではなく、私は情報が欲しいのだが?」


「せっかちは嫌われるよ?」


「それは困ったな、軍人は好かれることも仕事だと言うのに」


 軽く笑った大佐へ、東風は強めの風が吹いた瞬間口開いた。


「君の求める情報は……“天界の在処”でしょ? まさか僕に同族を売れと言うのかな?」


「はっ、君にとって同族は邪魔な障害でしかないだろう?」


 風が強くなる。

 冷え切った大気が、2人の男を撫でた。


「……さすが同盟相手だ、そこまで看破していたとは恐れ入るよ」


「サッサと言ってくれたまえ、こっちは早く帰ってさっきの王城の戦闘データを本国に送らねばならないんでね」


「はいはい、わかりましたよ元勇者殿。だけど天界の場所はまだ言えない……代わりにそれに近いことを教えよう」


 東風は、不気味に笑みを見せた。


「僕ら天使は元々“この世界の住人ではない”、無理矢理押しかけた余所者に過ぎないんだよ」


「余所者だと?」


「うん、太古の昔にこの世界へ訪れた……そうだな。君たちで言うところの異世界人だ。または異星人とも言える。だけれど君たちとはちょっと違う力を操るよ」


「……神力か」


「ピンポーン、正解。詳しいね」


「私は君たちの親玉を殺した張本人だぞ? 今さら過ぎる情報だな」


「女神アルナのこと? あぁ〜……確かに殺されたけどあいつウザかったし、僕ら古の大天使からすれば特に怒る事案でもないかな。研究主任だったってだけで偉そうにしててさ」


「大体わかったよ、つまり【天界】は移動できるのだな? 我々に感知されない特殊な方法で……、そして君らは私達よりも遥かに発達した世界から来た。それもかなり特殊なやり方を使って」


「うん、そういう意味では日本人と大差無いと思うけど?」


「彼らは我々に恩恵をくれた、だが天使は違うだろう? 信仰を糧とすべく一定レベルまで文明進歩を助けるが––––信仰が溜まったら即座に滅ぼす。危険指定外来種だ」


「本人が目の前にいるんだけど……?」


「自覚くらいしているだろう、じゃあ私はこれで失礼するよ。また進捗があったら会おう––––親愛なる同志、大天使東風」


 暗闇の中へ消えていく大佐。

 東風は受け取ったケースを今一度見つめ直し、ポツリと呟く。


「案外早く役に立つかもしれないな」


近日、ユリアに続いてアルスの2人目の恋人––––アリサ・イリインスキーの姿を公開予定です。

お楽しみにっ。

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