第359話・想いの吐露
王城だった場所に、隕石落下でもあったようなクレーターが出来上がってしまった。
俺は繋いでいた手を離すと、魔力切れでブルーから『魔法能力強化』へと変身がダウンする。
ミライもまた、荒く息を吐きながら変身を解除した。
髪はいつもの茶髪へ戻り、身体中の紋章が消え去る……。
「か、勝った……?」
「もしこれで起き上がってくるようなら、さすがに人間辞めてるだろ」
クレーター中心部へ降りた俺は、やはりというか予想通り……仰向けに倒れるイリアを見つけた。
ミライ同様身体の紋章は消え去り、赤かった髪も元の金髪へ戻っている。
俺はボロボロになった彼女の傍に降り立ち、ハッキリと告げた。
「あなたの負けです、アイリ王女殿下」
「はっ……はは、そのようですね。さっきの魔法……あっぱれでしたよ。アルスさん」
大怪盗––––いや、ミリシアの偉大な王族はアッサリと認めた。
そして、痛みにまみれた笑みを見せながら続ける。
「久しぶりに負けました……、あらゆる事柄が同時に起こった故の……いえ。この結果は、あなたにとって必然だったのですね?」
「……ッ」
俺は頷くと、前置きをすっ飛ばして本題に入る。
「なぜ王族のあなたが、自ら下賎と呼ぶ怪盗を名乗り……俺たちと事を構えたのです。他に手段なんていくらでもあったでしょう」
「……そうですね、側から見れば……ゲホッ! わたしこそ非合理の……化身みたいなことをやってましたね」
「でも」と、アイリ様は焼け焦げた土を手で握った。
「必要だったのです……法も妥協も踏み越えた存在が。王国を守る盾として……、宝具回収は、法を武器に行ってはダメだから」
「殿下をそこまでさせる原因を……、俺たちと戦ってまで宝具を集める理由を––––お教えできませんか?」
倒れたまま、辛そうに首を横に振る王女殿下。
「嫌です……だってこれは、わたしなりの罪滅ぼしだったのですから」
「罪滅ぼし?」
「えぇ、闇ギルド・ルールブレイカーに……半神と化したあなたの妹。本来であれば我々国家が主体をもって殲滅するべき敵でした、でも……」
アイリ様は時折咳き込むも、決して口を閉じない。
まるで、信念を動力に動く機械のように。
「わたし達は、あなた方生徒会に……あろうことか学生に頼ってしまった。学徒動員にも等しい行いを、愚かにもやってしまった……」
涙を流しながら、嗚咽同然の言葉を吐き出す。
「だからダメなのです、これ以上……平和に学業へ勤しむあなた方を、悲惨な戦場へ連れて行くようなことはできない! だから、だから絶対教えることはできな––––」
王女が言い終わる前に、俺は動いていた。
泣き叫ぶ眼前のワガママ王女の肩を、思い切り叩いたのだ。
骨に響いたのだろう、端正な顔が歪んだ。
「いっつ……ッ!!?」
「それだけですか、俺たちに話せない理由って」
「そ、それだけ……? それだけって! わたしは責任をもって王国を––––」
「フンッ!」
もう一度ひっ叩く。
今度はさすがにちょっと弱くだが、これでも相当痛かったのだろう。
「いっ……!! くぅッ……!」
王女は途中で口を閉じた。
間髪入れず、俺はズケズケと踏み入らせてもらう。
「どうせ天使絡みのことでしょう? 学生をこれ以上巻き込めないけど、法律や軍隊で俺たちは縛れないから……王女自ら汚れ役として宝具を奪いに来た。違いますか?」
痛みによるものか、葛藤によるものかは不明だが……アイリは涙で頬を濡らす。
「無礼ですよ……ッ、あなたッ。王族に向かってその態度と口ッ……! せっかく人が決めた覚悟を語っているのに」
「関係ないですね、そんなの理由にはならない……。俺はただ––––守りたいだけなんですよ」
膝をついた状態で、アイリの眼を見つめる。
「俺の“家族”を、やっと築けたホワイトライフを……」
「ッ!」
俺の後ろに、ミライとユリア。
そして気絶したアリサを背負う、1人の男が立った。
「もうやめましょう……アイリ様、これ以上1人で抱え込まないでください。我々は……彼らに負けたのです」
近衛総連隊長にして大英雄––––グラン・ポーツマスさんが、辛そうな顔でアイリ殿下を見下ろした。
「今が彼らに話す時です、大天使共の企てる“最悪のシナリオ”。その全てを––––」




