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第358話・炸裂、ユニゾン・セカンド!

 

「2人で……?」


「あぁ、2人でだ」


 強く頷いて見せる。


 俺の横に浮かぶ彼女は、まさしく見違えたと言って良い。

 今日まで飛翔魔法も満足に使えなかったミライだが、今彼女は悠々と空にいる。


 纏う魔力とスパークは力強く輝き、髪は美しいシャンパンゴールドへ……。

 身体に浮かんだ紋章が、その存在を示すようにクッキリ映っていた。


「お前にこの宝具をあげたのは俺だからな、半分くらい背負わせてくれよ」


 覚醒したミライの目尻を指で拭ってやる。

 若干俯いた彼女は、すぐに顔を上げるや俺の肩を叩いた。


「うん、わかった……! アルスはわたしの恋人だもんね。背負う重圧は分け合うのが王道展開っしょ!」


 どうやら、血界魔装に侵食された様子も無い。

 もうミライは、雷轟竜の力を完全に掌握している。


「ッ……!! アルスさん、なぜあなたがここに……!! 魔力切れで何もできないはずじゃ!?」


 起き上がったイリアが、信じられないと言いたげな表情で見上げていた。

 俺はニヒルな笑みと一緒に返事をしてやる。


「奥の手はギリギリまで隠しておくもんだぜ、王女様」


「解せませんね……! なぜ彼女たちが死にかけてから現れたのです? こんなタイミング非合理ですッ」


「目的のための回り道を非合理と言うようじゃ、まだまだお子様だな。わからないなら断言してやるよ––––お前の計画は失敗だ」


 左手に持っていた『インフィニティー・ハルバード』を、ユリアへ投げ渡す。

 魔法結界の維持から解放された彼女は、寸分違わぬタイミングでキャッチ。


 顔を綻ばせた。


「偽物じゃない……、師匠の宝具」


「大事に持っててくれよユリア、俺たちは今から––––」


 全身から最大出力で、蒼色の魔力を噴き上がらせた。

 大気へ鐘の音がうるさいくらいに響く。


「この怪盗と決着つけるからよ」


「ッ……! もうなりふり構ってられないようですねっ」


 イリアを包む焔が、まるで柱のように燃え上がった。

 熱量が凄まじすぎるのか、真冬にも関わらず周囲の気温が30度を超える。


「わたしの全部を賭けて、この一撃で決めましょう––––ミリシアを守る王族としてッ!!」


 目算だけでも今のイリアは、かつて半神と化した俺の妹––––レイ・イージスフォードとタメを張れる程のパワーを集約させていた。

 これから来る攻撃は、以前戦ったスカッドやレイの比じゃないだろう。


 でも怖くはない。

 俺の隣には––––


「行くわよ、アルスッ!!」


 ミライがいる。

 ちょっと行動が遅くて、でも最後にはキッチリ決める自慢の竜。


「あぁ、守り抜こうぜ––––俺たちの思い出!」


 右手をミライの左手へ絡みつかせる。

 “恋人繋ぎ”となったそこから、お互いの魔力が共振していく。


 熱い……。

 イリアの放つ物理的な熱なんか、これに比べればロウソクみたいなものだ。


 俺は空いた左手を、ミライの魔法杖へ手の上から添えた。

 蒼色の魔力と、眩しい電気が両側から杖へ収束していく。


「ミライ」


「……なに?」


「俺があげた誕生日プレゼント、こんなに大切にしてくれて本当に嬉しい。……ありがとう」


「ッ! 当たり前でしょ! アンタにプレゼント貰える人間なんて世界に何人もいないんだから! わたしにとって“特別”なのよ!」


「そうか、なら良かった」


 感じる……。

 本来なら拒絶する俺の魔力が、ミライの魔力と殆ど同一の波長となって融合していく。


 合わさったそれは、1本の宝具へ許容限界ギリギリまで集約された。


「全部灰にしておしまいですッ!! 勝つのはわたし以外ありえないッ! 勝つ!! ミリシアの王族の名にかけて––––!!」


 イリア……いや、アイリ王女は特大の焔剣を振りかぶった。

 マトモに喰らえば戦艦すら真っ二つにしそうな威力を持って、地面から跳ね上がる。


「滅軍戦技––––『イグニス・アルティメットドライブ』ッッ!!!!」


 全てを飲み込まんとする焔が、下から突っ込んでくる。

 俺とミライは、心臓の鼓動から呼吸までシンクロさせた状態で杖に力を込めた。


 放つは究極、竜の大口から撃たれる殲滅の主砲––––


「「合体魔法(ユニゾン・セカンド)––––『蒼雷撃鉄砲』ッ!!!」」


 ペン型魔法杖の先端が、閃光という表現では足りないくらいの光に飲み込まれた。

 杖だけではない、発射された魔法はいとも容易くイリアの滅軍戦技を掻き消し、大怪盗の敗北を一瞬で決定させた。


 最後、イリアは決まった結果を受け入れるように目をゆっくり閉じる。


「……、これが––––“信頼”の成せる技。わたしに唯一足りなかったもの……」


 魔法結界内に太陽が生まれた。

 目を潰さんばかりの光は、超特大の爆風となって王城の大部分を吹き飛ばした。


 爆煙が広がる中、周囲の気温が急激に下がっていった。


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