第356話・ミライVS大怪盗イリア
膨大なドラゴンの魔力を放つミライ。
全身にスパークを纏い、紋様を浮かべたその姿を見てイリアは叫んだ。
「あり得ない……! 王族でもない人間が真の血界魔装へ至るなんてっ」
「何を根拠に言ってるのかしら、こっちはね––––」
またも予備動作無しで消えるミライ。
もう目は頼れないと判断したイリアは、半ば直感で横へ飛び退く。
瞬間、今まで立っていた場所に雷撃とも言える踵落としが炸裂していた。
石畳が粉々に割れ、地面が陥没する。
「竜王から直に修行つけてもらったのよ、それこそ血塗れになってね。温室育ちが好き勝手––––」
地面を踏み込んだミライは、まさしく神掛かった速度でイリアへ肉薄する。
「ッ!?」
「言ってんじゃないわよッ!!」
魔法杖の側面を、イリアの身体へ叩き込んだ。
間髪入れずに魔力を放出。
「『レイド・スパーク・フルスロットル』!!」
積乱雲1個分の雷に匹敵する電撃で吹っ飛んだ怪盗は、花壇を何重にも砕きながら転がった。
どうにか体勢を立て直した先で、膝をつく。
あまりの電気量に、膨大な魔力で守っていた筋肉が麻痺してしまったのだ。
「わたしは守って見せる! アルスから貰ったこの杖で、思い出を––––守って見せるッ!!」
宙に飛び上がったミライは、ベン型魔法杖の先端で星形を描いた。
分裂したそれらは、7つの雷球となって漂う。
「『レイド・スパーク––––セブン・バースト』ッ!!」
「クッ!」
雷球が高速で、ジグザグ機動を描きながら突っ込んでくる。
身体に鞭打ち、イリアは回避行動に移った。
体操選手も真っ青な動きで避けるが、4発目を避けた辺りで全身の痺れに襲われた。
「こっの……!!」
空中でなす術もなく、3発の雷球がイリアへ直撃する。
身体がバラバラになりそうな程の電流、しかし彼女は全身から焔を放出して相殺。
反撃とばかりにミライへ突っ込んだ。
「付け焼き刃の変身で、わたしに勝てると思わないでくださいッ!!」
高速ですれ違い様、イリアは極焔牙爪でミライの腕と脇腹を抉り切った。
真っ赤な鮮血が、さらに白い制服を染め上げる。
「これで終わりです!!」
急速ターンし、もう一度ミライへ切り掛かろうとするが––––
「アグァアッ!?」
全方向から伸びてきた雷柱が、イリアを八つ裂きにした。
勢いを失い、地面に落着した彼女はすぐに何が起きたかを理解する。
「……血の力ッ」
「いっつつ……! ゼェッ、そう……アルス戦でわかったのよ––––血界魔装は出血すればするほどその出力を増す!」
証拠に、今さっき極焔牙爪で切った傷口の近くに浮かんでいた紋様が、ミライの血を吸って輝きを増した。
同時に、纏う魔力がさらに引き上がる。
「血を代償に力を……!? なんて非合理なッ!! 失血死しておしまいでしょう!」
「温室育ちにはわからないでしょうね……っ」
今度もミライの動きは見えない。
後頭部を掴まれたイリアは、そのまま荒れた地面に顔面から叩きつけられた。
「ガッ……!?」
「無知な王女様に教えてあげる、わたしは竜王級アルス・イージスフォードに追いつくためなら––––」
頭を持ち上げ、城壁へ向かって放り投げる。
勢いを殺せず衝突したイリアは、砂塵と瓦礫に飲み込まれた。
「血なんていくらでも––––そんなの無くなるまで流し尽くしてやるッ!!」
イリアの直上で、眩い閃光が走った。
「しまっ––––」
「逃がさない!」
瓦礫に足を取られたイリアへ向かって、ミライは杖を振り下ろした。
「滅軍戦技––––『天界雷轟』ッッ!!」
まさしく響いたのは轟音。
極太の雷撃が、イリアへ真っ逆さまに落下したのだ。
凄まじい電流の嵐が、王城中の大気へ散布された。
煙が晴れた先––––マントも怪盗服もボロボロになったイリアが、かろうじて立っていた。
「愛しの人間のためなら血を流すことを恐れない……、まさに愛は狂気と表裏一体ですね……」
「好きに言えば良いわ、アンタにわたしの……アルスに対するこの重い感情は絶対わからない」
「そうですか、でも––––」
イリアはまたもマントに手を突っ込むと、1本のナイフを取り出した。
武器の出現に警戒するが、直後にイリアは信じられない行動へ移った。
「わたしは一個人への愛ではなく、ミリシア4000万の国家そのものを想っているのですッ!」
ナイフの先端を内側に向けると、イリアは自らの脇腹へ突き立てた。
真っ赤な血液が噴き出す……。




