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第354話・ユリアVS大怪盗イリアⅡ

 

「はぁあッ!!」


 魔力を上限いっぱいまで上げたユリアは、一気呵成にイリアへ突っ込んでいった。

 同時に、地上ではミライとアリサの2人が技の準備に入る。


 互いに拳を近づけ合い、開いた空間内に魔力が集まっていく。


 発動まで2人からは、何としても目を逸らさせないといけない。

 ユリアは『インフィニティー・オーダー』をハンマーモードへ切り替えると、大質量のそれを上空から叩き落とした。


「星凱亜––––『木星巨弾』!!!」


 焔の鉤爪を振り、イリアは真っ向から攻撃を受け止める。

 激しい衝突の中で、ユリアは眼前の大怪盗へ問い詰めた。


「なぜこのような事をするのですか! アイリ王女殿下ッ!!」


 正体を暴露。

 このタイミングでの言葉に、彼女は一瞬だが動揺を見せた。


「っ……、さぁ。誰のことでしょう……わたしは正義のスーパー大怪盗なので」


「とぼけないでくださいッ!!」


 空中で数度攻撃を打ち合った後。互いに間隔を開けて睨み合った。


「その首の傷は間違いなく、ファンタジアで会長が付けたものです。いくら炎耐性が強くても……竜王級の攻撃は防御し切れなかったはず」


「なるほど……ですが、もしわたしが第一王女アイリだとして、状況は何も変わりませんよ。ユリアさん」


 焔を纏って飛び上がったイリアは、高空からスピードを乗せての蹴りを放った。

 さながら隕石のようなそれを、ユリアはハンマーを振り、足元に支えとなる魔法陣の床を作ることで受け止める。


 ハンマーが軋む。

 足場代わりの魔法陣も、細かくヒビ割れた。


「なぜ王族ともあろうお方が、このように強硬な手段を……!」


「王族だからですよ、身の縛りがあるからこんな怪盗ごっこで自分を騙しているのです。……騙すしかないのですッ!」


 イリアの想いに呼応し、焔と威力が増大。

 足元を支える魔法陣が粉々に砕けた。


「話し合うという道は、無かったのですか!?」


 すぐさま体勢を立て直したユリアは、追撃が来る前に回避機動を取りながら肉薄した。

 今度は2刀短剣モードで襲い掛かり、鍔迫り合いが発生する。


「もし話し合ったとして……、それであなた達はアッサリ宝具を渡してくれるのですか? 無理でしょう? たとえ莫大な補償をあてがったとしてもッ!」


 剣と爪のぶつかり合いが、火花と閃光を何度も発生させた。

 イリアは心情を、想いを乗せて焔を操る。


「宝具は持ったその人の思い出であり、自身を肯定する屋台骨。思い出が金で買えないなんて事––––こっちは百も承知しているのですよ!」


「それで無理矢理奪うというのですか!? 思い出を! その人の宝を!!」


「だからわたしは“怪盗”に成り下がったのです!! 下賎で汚い、理不尽を代金に思い出を奪える存在へ!!」


「ッ!?」


 イリアの拳が、防御をすり抜けてユリアの脇腹へ突き刺さった。

 熱さと鈍痛が、ユリアの口内に溜まっていた唾液を全て吐き出させる。


「ケホッ……!」


「罪も責任もわたしが全部背負います、許せとは言いません。恨むなら好きなだけ恨んでくださ––––」


 言い終わる前、まだ痛みに苦しむユリアは次の行動へ移っていた。

 足裏で炸裂魔法をすぐさま発動。


 爆発で勢いを付けたユリアは、弾丸と同じ要領でイリアへ強烈なタックルをお見舞いしたのだ。


「ガッハ!?」


「恨むも恨まないもありません––––!」


 超高速で身体ごと吹っ飛び、イリアは屋根に叩きつけたられた。

 煙を上げながら転がった先で、彼女もまた吐き気に負けて口内のものを吐き出す。


「オエッ……、クッ……!」


「わたしはただ、貴女を後悔させるだけです。そして教えてあげます」


 ユリアの持つ剣が変形し、再び魔法杖に姿を変える。


「わたし達からは、何も奪えないと」


 口元を拭ったイリアは、ニヤリと笑う。


「言い切りますね」


「えぇ、理不尽なんてもの……通貨として認められるわけないじゃないですか。突っぱねて当然です」


 ここまでの戦闘で、なんとかミライとアリサからは数百メートル突き放した。

 時間稼ぎも十分、後は––––


「アリサっち!! ブラッドフォード書記!!」


「ッ!?」


 庭園の奥で、一際明るい輝きが満ちた。

 同時に、寒気を覚えるほどの魔力が1点に集まっているのを感じる。


「オッケー、ユリ! こっちは準備万端だよ!!」


「エーベルハルトさん! 早くそこを退いて!」


 2人の魔力波長が完璧に一致した時だけ発動できる、究極の攻撃魔法。

合体魔法(ユニゾン・セカンド)』が完成していた。


 特異点とも呼ぶべき魔力球が、2人の拳の間に形成されている。


「はぁあッ!!」


 ユリアはさらに追い討ちを掛ける。

 離脱するついでに、彼女はすれ違いざまで極焔牙爪の半分を、渾身の力でもって剥ぎ取ったのだ。


「今です!!」


 全ての準備は整った。

 後は溜めに溜めたこの魔法を発射するだけ。

 勝負は決しようとしていた––––


「「合体魔法(ユニゾン・セカンド)––––カオス・エクスプロー……!!」」


 イリアがマントに手を突っ込む。

 渾身の力を込めた魔法は、彼女目掛けて発射………………されなかった。


「えっ…………?」


 ミライは自分の腹に、熱さにも似た冷たさを覚えた。

 思わず気持ちの悪い感触の根源を見下ろすと––––


「あれっ……?」


 真っ白な制服に、ジンワリと赤い染みが広がっていた。

 ドンドン広がるそれは、“大量の血”だった。


「ミライさんッ!!!」


 状況を理解できないアリサが叫んだ。

 発射寸前だった合体魔法が、跡形もなく消滅する。

 形相を歪ませたユリアが見た先に、答えはあった。


「気づかないわけないじゃないですか……、合体魔法なんて隙だらけの博打。撃ってくださいと言ってるようなものです」


 イリアの右手には、銃床(ストック)が切り詰められたボルトアクション・ライフルが握られていた。

 その銃口からは、発射した際の硝煙が出ている。


 最初の邂逅(かいこう)で見ていたはずだったのに、失念していた……。

 薄れゆく意識の中、ミライはあのマントが物を亜空間へ収納できる宝具だったことを思い出す。


「ブラッドフォード書記!!!」


 膝を着いたミライは、地面に血を垂れ流しながら崩れ落ちた。


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