第353話・ユリアVS大怪盗イリア
王城を覆った巨大な『魔法結界』は、先程から何度も崩れかけていた。
原因は1つ––––中で起きている戦闘が、規格外のスケールだからだ。
「『星凱亜––––『彗星連斬』!!」
閃光が走った。
高等魔法、『飛翔魔法』で超高速飛行しながら、ユリアは煙を裂いて飛び掛かる。
斬り刻まんとする敵は、すぐさま対処を行った。
「『イグニール・ヘックスグリッド』!」
ユリアの剣撃は、出現した六角形の焔によって寸前で止められてしまう。
舌打ちした彼女の睨む先で、シルクハットを被った少女が笑った。
「さすが賢竜族のエーベルハルト家だわ、人間がここまで神器を扱えるなんて」
そう呟いた少女の顔は、赤い幾何学模様に覆われている。
楽しげにしている彼女は、名を大怪盗イリア。
鎧という真なる血界魔装に変身して、ユリアと互角の戦闘を行っていた。
「それはどうも、わたし––––こう見えて天才ですので」
「察してますよ、あなたは強い……だからこそッ」
真っ赤な髪を振り、障壁ごとユリアを弾き飛ばした。
「わたしももっと燃えてきますッ!」
膨大な熱エネルギーが、形を変えてイリアの両手に集まった。
「竜装––––『極焔牙爪』!!」
燃え上がったドラゴンの鉤爪を錬成し、イリアは体勢を立て直したユリアへ突撃。
剣による防御の上から、猛撃を叩きつけた。
「あなたの神器も––––頂きます!」
間髪入れず打ち込まれる乱打に、とうとうユリアの防御が崩される。
無防備な腹部へ、イリアは右ストレートをお見舞いしようとするが、ここで食らっては一撃で意識をもっていかれてしまう。
「はっ!!」
咄嗟に剣を投げ飛ばし、攻撃を弾かれたイリアの姿勢が崩れた。
「絶対に渡しませんッ!! わたしの神器も、ブラッドフォード書記の宝具も!!」
直後にユリアが取った行動は、常識を完全に外れていた。
極焔牙爪を纏うイリアに対抗し、両手に自爆覚悟で“爆裂魔法”を付与したのだ。
「だあああぁあああッ!!!」
イリアの焔拳を、怒涛のラッシュで迎撃する。
あのアルスの防御魔法すら破ってしまう竜装だが、至近距離での爆発によるこの押し合いで軍配は上がらない。
激痛にまみれた拳を、ユリアは怪盗の腹部へめり込ませた。
「カッ……!!」
殆どゼロ距離で爆裂魔法を受け、さすがのイリアも吹っ飛ぶ。
殴り合いは、ユリアの勝ちだった。
すぐさま『インフィニティー・オーダー』を呼び戻し、両手で握った瞬間魔法杖モードへ変更。
ソニックブームを発生させながら、追い討ちを掛ける。
「いっつつ……! やるぅ、でもこれで流れはおしまい!『イグニール・ヘックスグリッド』!!」
再び防御へ以降するイリア。
しかし、王立魔法学園の副会長は同じ失敗を繰り返さない。
「星凱亜––––『土星共鳴震』!!」
振られた魔法杖は、最強の防御魔法をアッサリ打ち砕いてしまった。
「ッ……!! “超振動”で障壁を!?」
「えぇ、全ての防御魔法を粉砕する奥義。対会長用の切り札として用意していましたが––––練習しておいて正解でした!」
勢いそのままに、ユリアはさらにイリアのみぞおちへ杖を叩き込んだ。
「『上級爆裂魔法』ッ!!」
城壁すら粉砕する大爆発を直に身体へ当てた。
砲弾が如く吹っ飛んだイリアだが、その顔から笑みは消えていない。
「いったぁ……ッ、吐きそう! 嘘なしで本当に強いッ、ですが––––」
空中でブレーキを掛けたイリアから、激しく焔が噴き上がる。
ユリアの真っ白な肌が、高熱で焦がされるようだった。
「わたしも、ここで負けるわけにはいかないんですッ!!」
超音速で飛び出すイリアを、すかさず迎撃した。
「星凱亜––––『火星獣砲』ッ!!」
放たれた火炎放射砲は、確かにイリアへ直撃した。
しかし高エネルギーのそれらなど、最初から無いと言わんばかりにスピードは落ちない。
アルスとの公式戦では街ごと焼き払った技だが、すぐに理由を理解する。
「極焔竜の炎耐性……!」
「正解!!」
スピードそのままに、イリアは攻撃を仕掛けた。
さっきのお返しとして、焔でコーティングされた拳をユリアの腹部へめり込ませた。
「ムグッ……!? くふっ!」
鈍い激痛と熱が、ユリアの腹を焼いた。
だがパンチが当たる直前に、彼女は真後ろへ緊急回避していたのだ。
そのおかげで衝撃は緩和され、ダメージが最小限に抑えられる。
距離を取った両者は、魔力を一挙に集約させた。
「ッ!! 星凱亜––––!!」
「滅軍戦技––––!!!」
互いの必殺技が、近距離で容赦なく放たれた。
「『太陽神越陣』ッ!!!」
「『イグニス・オーバードライブ』ッ!!!」
両者が撃った大技の激突により、再び魔法結界へヒビが入る。
城は尖塔が消滅し、旗が燃やし尽くされる。
「ッ……!!」
広がった黒煙の中から飛び出たユリアは、地上にいたミライとアリサの傍へ着地した。
途端、フラリと膝をつく。
「ユリ、大丈夫!?」
駆け寄ってきたアリサへ、まだ戦闘は終わってないと手で制した。
「困りましたね……、こっちは大天使スカッド戦でパワーアップしてるのですが。それでも尚決め手が見当たらないというのは、悔しいです」
立ち上がったユリアは、壊れかけの魔法結界を修理した。
そして、2人へ向かって振り向く。
「相手はミリシア随一の正当な王族……わたし1人では、最後まで決め切れません。なので––––」
ユリアは最善と思われる案を、2人に出した。
「『合体魔法』の準備をお願いします、ドクトリオン博士を葬ったあの技なら……いくらヤツでも押し切れるかもしれません」
「でもアレ、発動までに結構時間掛かるわよ!?」
「ゼェッ……心配ありません」
煙を掻き消し姿を現したイリアへ、ユリアは再び杖を構える。
「発動までわたしがヤツを引きつけます、だからお2人は……技の発動だけに集中してください!」




