第348話・さぁ勝負だ、正義のスーパー大怪盗
長かった夕食会が終わり、俺たちは今夜泊まる寝室へ案内された。
ファンタジア旅行の時と違い、今回は全員に個室が与えられた。
っと言っても、全員ここで朝まで熟睡するつもりは無いが。
「ねぇアルス、マジでやんの?」
広い個室の中央で、俺の着替えを手伝っていたミライが一言。
「マジも何も、もう全部用意しちまったし……このまま泣き寝入りするわけにはいかないだろ? フォルティシアさんの宝具を取り戻すチャンスは今日しか無い」
「にしたってさぁ」
少し離れて、こちらの全身を見たミライは不安気に呟く。
「何もアンタまで“怪盗”にならなくても……」
そう、今の俺は全身を黒色のマントにスーツ、シルクハットで包んだ怪盗スタイル。
ミライがいつか俺に着せるべく、こっそり買っていたものらしい。
今回これを、無理言って持ってきてもらったわけだ。
「さすが会長、普通に似合ってますよ。こういう格好はアルスフィーナ以来ですね」
「あれは十分禁忌のコスプレだが、まぁこっちも似たようなもんか……どうであれ雰囲気は大事だからな」
マントを翻す俺に、ベッドへ座るアリサが疑問符を浮かべた。
「って言うか、何でこんな流れになったんだっけ」
夕食のことで頭がいっぱいになって、説明聞いてなかったなこいつ……。
しょうがないと、俺は改めて計画概要を話した。
「結論から言うぞ、散々俺たちを襲った大怪盗イリアの正体は––––アイリ第一王女殿下で間違いない。これは城の宝物庫にしまってあった神器、そして俺が以前付けた首元の傷で確信できた」
「ファンタジアで戦った時に与えた傷だよね? そっか、いくら回復ポーションでも……竜王級であるアルスくんの攻撃はそう簡単に治せないのか」
「だいぶザックリいったしな、あともう一つ……何か引っかからないか?」
俺の問いに再び疑問符を浮かべたアリサへ、ヒントを与えてやる。
「名前だよ」
「名前?」
「“アイリ”の3文字を並べ替えてみろ、これでわかるはずだ」
「うーん……っ」
しばらく考えるような素振りを見せたアリサだが、パンッと手が勢いよく合わさった。
「“イリア”だ! アイリを入れ替えたらイリアになる!」
「そう言うことだ、アイリ王女殿下は恐ろしいほどにネーミングセンスが無い」
「アルスフィーナも大概ネーミングセンス無いけどね」
横から入ったミライの容赦ないツッコミに挫かれるも、すぐに口調を戻す。
「まぁそんな彼女のことだ……おそらく今は完全に油断し切っている。理由は––––」
視線を向けた先で、ユリアが洋服棚の中身を全部抜きながら答えた。
「会長は今完全な魔力切れ、ファンタジアで痛い目を見たイリアは、このチャンスを必ず狙うでしょうね」
「正解だ、つまり今夜––––イリアは必ず襲ってくる。俺が戦闘に手出しできないと踏んでな」
全てはこのためだ。
いつ襲われるかわからない日常ではなく、確実に襲われるシチュエーションを作るために俺は今回わざわざ魔力を空にした。
全てはアイリ様を……大怪盗イリアを、出し抜くため。
「そこを突いて、俺は単身宝物庫へ向かう。イリアが俺から目を離した隙に––––『インフィニティー・ハルバード』を奪取する」
ようやく概要を頭に入れたらしいアリサが、手を上げた。
「じゃあ何でわざわざ“予告状”なんて出すの? そんなの出したら警備が固くなって、例の近衛大隊長たちが出てきちゃうんじゃない?」
心配そうにするアリサとは裏腹に、俺は書き上げた予告状を手に頬を吊り上げる。
「言ったろ。相手が怪盗ならこっちも怪盗であるべきだ。宝物を盗まれたならこっちも盗み返す。示すんだよ––––」
シルクハットを、今一度しっかりとかぶりながら……俺はイリアの雰囲気を真似した。
「どっちが正義のスーパー大怪盗かをな」
この1時間後……ユリアによって、城内のあちこちに俺の書いた予告状がばら撒かれた。
さぁ勝負と行こうか、自称正義の大怪盗。




