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第346話・ベリナの挑発

 

 近衛大隊長ベリナ。

 シャンパンを1口啜った彼女は、俺の隣りに来るや下卑た笑みを見せた。


 おまけに、馴れ馴れしく腕まで肩に乗せてくる。


「ん? 何も言い返せねえか? まぁプロパガンダで祭り上げられた竜王級なら当然だな。ハッハッハ」


 酒の匂いが臭い……。


 酔っ払いの相手は大嫌いなんだが、今この場で俺が夕食会場を離れるのは不味い。

 不本意だが相手をするか……。


「あいにくこういう場所に慣れてなくてね、胃袋が萎縮しちまってさ」


「わかるぜぇ、アイツらと違って本物のお飾りだった竜王級なんて嘘つきにゃ、さぞここは居心地が悪いだろうよ」


 胸中で思わず舌打ちしてしまう。


 なんなのだろうコイツは……。

 いちいち言動が癪に触って仕方ない上、なぜわざわざ俺を見つけてこっちへ来たのだろう。


 こちらは構ってる暇など無いというのに。


「あっちの3人は見事にアイリ殿下へ実力を見せつけたってのに、臆病者のお前だけはキッチリ無能。なぁ、何で平気な顔してこの夕食会出れたんだ? 良かったら教えてくれよ」


 昼はみんなに、コイツらの相手をするのは無駄だと言ったが……。


「厚顔無恥……とでも?」


 訂正––––コイツは、放っておいたらどこまでも追ってくるタイプだ。


「良い言葉知ってるじゃねえか、それだよそれ! まさしく今のお前だエセ竜王級。無能なことがバレるの怖くなってさっき逃げたんだろ?」


 正面に回り込んで、ゲラゲラと笑う。


 さすがにここまで言われると、無抵抗主義にも限界がある。

 俺は表情を崩さないまま視線を合わせた。


「俺への解釈はどうぞ好きに任せるが、臆病云々はお前にだけは言われたくないね」


「んだと?」


「さっきの防衛戦、お前の方こそどこにいたんだよ」


 ここまで饒舌だったベリナの口調が、ピタリと止んだ。

 ユリアから聞いた、一般の近衛騎士は最後まで立派に戦っていたそうだが、コイツら近衛大隊長は一切見かけなかったと。


「……はっ、どこも何もアイリ様の護衛に決まってんだろ。頭まで悪いのか? エセ竜王級はよ」


「アイリ殿下は別の近衛と一緒に城内へいたはずだ、襲撃があったらすぐに地下シェルターへ行くはず。まさか……」


 今度はこっちが頬を吊り上げて見せる。


「天下の近衛大隊長様が、必死で戦う部下の指揮を放棄して、地下シェルターへ真っ先に避難したんじゃないだろうな?」


「ばっ! 話を逸らすんじゃねえよ! 俺はあのくらいの敵で出るほど安い戦力じゃないんだ!」


「誤魔化すなよ。大隊長クラスはいわゆる野戦将校と呼ばれる部類だ、前線で陣頭指揮をする役職であって後方に引っ込む階級じゃないはずだが?」


 俺の言葉に、ベリナの顔がみるみる内に青くなっていく。

 これはかつてラインメタル大佐がまだ少佐だった時代、大隊長として前線にいたという話から得た情報だ。


 リアル軍人から手に入れた情報武装によって、どちらが臆病者かドンドン丸裸となっていく。


「お前は情報通信部でもなければ、兵站管理部でもない。戦闘職種たる近衛の大隊長だ……それがまさか––––」


 臨界点に達したのか、ベリナは激昂した表情で俺の顔にシャンパンを浴びせた。

 額から服までビッショリと濡れる。


「それ以上言ったらガチで殺すぞ……、無能の分際で俺様を愚弄するのは許さんぜ? あぁっ!?」


 どうやら完全に図星だったらしい、流石に相方の異常な様子に気がついたのだろう。

 もう1人の近衛大隊長、カルミナがこちらへ駆けてきた。


「ベリナ、あなた何やってるの」


「この無能……俺様を弱虫呼ばわりしやがった」


「それでシャンパンを? ダメよベリナ、いくら無能が吠えたと言っても今は王女様主催の夕食会中。これ以上騒がないで」


 ベリナを諌め終わったカルミナは、去り際に冷たい視線を俺へ向けた。


「この夕食会は実力ある者のみに許された場よ、無能のあなたには相応しくない。王女殿下の品位のためにも……サッサと退室してちょうだいな」


 それだけ言い残し、まだ不満そうなベリナを連れて出て行く。


「……久しぶりにきたな」


 何一つ料理を口にすることなく、俺は夕食会が終わるのを部屋の隅でジッと待った。

 その間––––俺は1枚の手紙、いや。


 “予告状”を仕上げ切った。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この無能将校どもがイラつきすぎて先が気になる! 目の前でブルーペルセウスの威圧でも見せてわからせて欲しいわ
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