第345話・大夕食会
天界騎士の襲撃は、生徒会役員の活躍により見事防がれた。
完全に修復の終わった王城内。
俺たちは近衛兵に連れられ、だだっ広い食事会場へ来ていた。
天界と行った最初の戦いの勝利を祝い、予定通り夕食会が開催されるとのことだ。
「ウワッ……全部高そうな料理ばっかよ、しかも凄い数」
「だな……これ、高級過ぎて庶民舌の俺じゃ味がわからんやつだ」
ミライの言葉に、シャンパングラスを片手に頷く。
俺の横では、同じようにユリアとアリサもグラスを片手にテーブルを見つめていた。
「あのクラッカー? によくわかんない色のジャムが付いたやつ美味しそうだよユリ」
「貴女、よくわからない色のジャムが美味しそうに見えるのですか……?」
「こういう場で出る料理だよ? 味は保証されてるって、食わず嫌いせずにコンプリートするつもりで食べなきゃ損じゃん!」
「いつもながらその食欲には感服しますね……、ちゃんと後で動ける量だけ食べるんですよ」
「はーい」
際限なくどこまでも食べそうなアリサへ、それとなく自制を促すユリア。
ここで動けなくなっては、今夜の計画に支障が出るから当然の話だ。
「このシャンパン……、アルコール度数いくつだろうな?」
「あぁ確かに、わたしと会長はアルコール駄目ですものね」
どこか遠い目になるユリア。
この国では15歳から飲酒オーケーだが、当然……だからと言って誰でも飲めるわけではない。
俺はもちろん、ユリアも過去に冒険者ギルド・ドラゴニアで見栄を張った結果、裏路地でキラキラを吐き戻す羽目になった。
「悪い、ここはアルコール強い勢のミライとアリサに飲んでもらって良いか? どうせこれ最初の乾杯用だろうし」
双方から了承をもらう。
結局、事こういう場面では2人の存在に頼ってしまう。
そんな感じで酒の始末を話し合っていると、正面の大きな台に1人の少女が姿を現した。
大勢の視線が一点に集まる。
絢爛なドレス姿で、俺たちと同じシャンパングラスを持ったそのお方は、王国第一王女––––アイリ・エンデュア・ミリシア殿下だった。
「ご来賓の皆様、今夜はお忙しい中こうしてお集まりいただきありがとうございます」
軽く一礼した王女殿下は、大勢の来賓の中からすぐに俺たちを見つけ出した。
「まず王族を代表してお礼を、今日こうして予定通り夕食会を開けたのも––––そこにいらっしゃる王立魔法学園の皆様が、忌まわしき天界の攻撃を退けて下さったおかげです!」
歓声が起こった。
まぁ俺は特に寄与していないので、適当に受け流す。
「彼女たちのおかげで近衛騎士は負傷者こそ出ましたが、死者はゼロで抑えられました。改めて……勇敢な行動と健闘に感謝を」
もう一度頭を軽く下げた王女様は、キッと正面を向いた。
「今宵は人類が上位存在へ反旗を翻したことを示す、象徴的な夕食会です! 今ここには連合王国同盟各国の要人や、ご存じ生徒会の方々がいらっしゃいます。今日この場所が––––良き交流の場とならんことを願って」
全員がグラスを持ち上げた。
俺たちも周囲に習って、上に掲げる。
「乾杯」
「「「「「乾杯!!」」」」」
俺はグラスを下ろしながら、アイリ様を半ば睨め付けるように見つめていた。
やはり、間違いないようだ……。
「ねぇアルス、飲まないならサッサとそのシャンパン頂戴よ」
「んっ? あぁ……」
横から割ってきたミライが、俺の手からグラスを奪う。
「ホントに一口も飲んでないじゃない、少しくらい味わってみたら?」
「いいよ、俺は酒の美味しさがわからんつまらない男だ」
「フーン、まぁ良いけど。とりあえず夕食会は自由行動で良いのよね?」
「問題ない、ユリアとアリサも楽しんでこい。この夕食会を守ったのは他でもないお前たちなんだからな」
目を輝かせて飛び出していくアリサ。
とりあえず見栄えが良い物から取っていくミライ。
見るからにジャンキーなハムに向かうユリア。
この行動1つで好みが見えるのだから、面白いもんだ。
各々の背中を見送った俺へ、背後から声が掛けられた。
「おいおい腹減ってないのか? 竜王級さんよぉ」
振り返ると、そこには紫色の鎧が映った。
さらに視線を動かすと、自信に満ちた女性が見下した笑みを浮かべていた。
「そりゃそうか、お前はさっき発生した防衛戦の時どっかへ逃げてたもんな? 戦ってないなら腹なんて減るはずねぇか」
絶妙にうざったい口調と顔。
王国近衛大隊長の片割れにして、俺たちをプロパガンダ呼ばわりした女––––ベリナだった。




