第343話・相手のやり方に乗ってやろう
「さっきから揺れが凄いな……、みんな張り切り過ぎて後で燃え尽きなきゃ良いが」
王城上空で、ウチの生徒会と天界の兵士が楽しくやり合っているであろう頃––––俺は王城内を歩いていた。
今の俺は魔力切れ、たとえ『魔力探知』を発動されたとしても反応しないはずだ。
おまけにこの混乱で、近衛騎士たちは出払っている。
チャンスは––––今しか無かった。
「倉庫から7番目の扉……ここだな、ノイマン?」
手に持った小型魔導タブレット、通称ミニタブから少女の声が響く。
『えぇ、過去の出入記録から見て間違いないですよ。ここが––––王城『宝物庫』への入り口です』
目の前にそびえる扉は、他の木製物と違って荘厳な雰囲気を感じさせた。
普段なら警備がいるだろうが、今はほぼフリーの状態だ。
「ロックはどうなってる?」
『ミニタブを近づけてください、確認します』
言われた通り、触れない程度に端末を扉に近づけた。
ロック内容はは数秒で赤裸々になる。
『詳細判明……対魔法、対物理万能防護エンチャント。および魔力探知式マーキングアンカー、さらに非常警報システムと高圧電撃魔法トラップですね」
「思っていたより厳重だな……でもこの中に」
俺は扉を見上げた。
「フォルティシアさんが奪われた宝具––––『インフィニティー・ハルバード』が眠っている。これは疑念じゃなく確信だ」
『確証はあるんですか? 私が言うのも何ですが……竜王級。あなたは今かなりヤバいことをしている気がします』
ノイマンの忠告に、俺はハナから問題ないと笑う。
「先に仕掛けて来たのは向こうだ、俺は自分から滅多に仕掛けはしないが––––降りかかる火の粉に容赦なんて一切しない」
『奪われた物を奪い返す、ただそれだけですか』
「当然だろう、泥棒猫には必ず制裁を食らわす。それに俺は相手のやり方に乗ってやるつもりだ……だから今は仕掛けず偵察で済ましてんだよ」
『あぁ……だからですか、あの“ヘンテコな衣装”をわざわざ王城に持ってきたのは』
「ヘンテコ言うな、結構カッコいいだろ。ミライお手製のコスプレ衣装だぜ?」
『わたしにセンスを求めないでください……、無感情のAIですので』
「そりゃ悪かった、じゃあサッサと済まそう––––ノイマン」
近づけたミニタブから、甲高い音が鳴り響く。
『作業完了。バックドアを仕掛けました、これで竜王級……あなたの任意で宝物庫の全てのセキュリティを解除できます』
「サンキュー、さすが超AIだ。これで下準備は終わりだな」
一際大きい揺れが、王城を襲った。
それを境に、戦闘の喧騒がドンドン静まっていく。
「決着がついたみたいだな、よーっし……じゃあ俺たちもそろそろ戻るか。あのうざったい近衛大隊長に見つかりたくない」
踵を返す俺に、ノイマンが抑揚なく尋ねてきた。
『いつまで魔力を空にしているつもりですか? もう魔力探知システムはこっちが掌握しました、そろそろ回復してもいい頃かと』
「あのなぁノイマン、お前プログラム相手には無敵だが……人間相手にはまだまだ甘いだろ。そんなんじゃ悪い大人の巧妙な罠にすぐ引っ掛かるぞ」
俺の指摘が図星だったのか、黙り込むノイマン。
「いいか? 不意打ちってのは最高のタイミングじゃなきゃ効果を発揮しない。昨日言っただろう? 俺はあと少しだけ––––無能でいなくちゃならない」
『最高の結果を得るため……ですか?』
無言で頷いた俺に納得したのか、ノイマンがそれ以上追求してくることは無かった。
さて……今夜が楽しみだ。




