第341話・天界騎士襲撃
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「ここがミリシア王城か……、人類も随分と再建したじゃねえか」
高空から腕を組んで城を見下ろす男は、異形のスーツを纏っていた。
背中からジェットを噴射してホバリングしながら、眼下より上がってくる対空砲火を眺める。
曳航弾に映った顔は、まさしく豪傑という言葉が相応しかった。
「グリペン小隊長、大天使ミニットマン様より裁定が下されました」
同じくジェットで飛んできた男が、報告を告げる。
「おう天曹長、内容は?」
「天界の威厳を見せつけろ、愚かな王族とそれに従う人類は––––裁きの槍で八つ裂きにせよとのことです」
「フッハッハ! 了解した、さすがはミニットマン様だ……わかってらっしゃる。ではこれより––––」
手で髭を触ったグリペンと呼ばれる天界小隊長は、ニヒルな笑みを見せた。
「裁きを開始せよ、大義と神の加護は我らにあり! まずはあの目障りな対空砲から潰せ!!」
グリペンの指示で、ジェットスーツを着た部隊が副小隊長に率いられる形で一斉に急降下を開始した。
対空砲機関砲も決死の弾幕を張るが、変則軌道で飛ぶ天界騎士にはまるで当たらない。
「エンジェル・ウェポン、オールグリーン。天界製対人炸裂刃、一斉発射!」
起き上がった両肩の砲塔から、光の刃が発射された。
それらは的確に対空砲座を貫き、次々と爆発を発生させていく。
「ぎゃああっ!?」
「離れろ! 次がくる! 空爆の破片が飛び散るぞ!!」
たった1度の攻撃で、近衛対空部隊は壊滅状態に陥った。
城を這うように高速飛行した天界騎士たちは、急上昇した後に扇状へ拡散した。
「対空砲の7割を沈黙、続いて対攻城熱線––––発射!!」
腕の砲塔から、熱線が撃ち出される。
まだ残っていた対空砲を、尖塔ごと貫いて地面を抉り焼く。
王城は、一瞬にして火の海と化そうとしていた……。
「熱いッ!! 腕がァアア!!」
「メディック急げ!! 負傷者多数! 救護部隊を援護しろ!!」
遮蔽物に隠れていた近衛騎士が、長身のボルトアクションライフルで天界騎士を狙う。
だがそれも単発式故に当たらず、地上の負傷者を増やすばかりだった。
上空で飛行しながら、副小隊長は笑った。
「見ろ諸君! これこそ脆弱な人間が天界に逆らった末路だ!! 我らの慈悲と庇護でしか生きれない人類の、醜く醜悪な姿だ!!」
あれだけ威勢よく啖呵を切ったのがこのザマとは、本当に人類はバカで貧弱な下等生物なのだろう。
自身の中で考えを今一度確認した副隊長は、視界の端でまだ動く近衛騎士を見つけた。
数人が担架を担いで、1人の負傷兵を運んでいる。
なんと愚かで見苦しい……、あまりの情けなさに情すら湧いてくるではないか。
「苦しいか? なら––––今楽にしてやろう」
両腕を突き出し、2つの砲塔の持つエネルギーを収束させた。
「消し飛べッ!!」
副隊長は、担架目掛けて高エネルギー熱線を撃ち放った。
命中は確実、当たれば援護の兵士ごと消し飛ぶだろう。
2秒後に映る景色を妄想しながら、愚かな人間の最期を見届けようと目を見開いた瞬間だった––––
「貴方たちの動きと戦術––––全て把握致しました」
一直線に伸びていた熱線が、突然曲げられたように90度向きを変えてしまった。
攻撃は、何も無い夜空へ吸い込まれていく……。
「なっ!?」
ありえない光景だった。
負傷者を運ぶ担架の上空で、1人の少女が浮いていた。
そんなバカな……人間に、空を飛ぶ能力は––––
「負傷者を優先して攻撃する不埒共は、地面に這いつくばっていた方がお似合いですよ」
金髪の少女は、およそこの世のものとは思えない機動で副小隊長の周囲を駆け回った。
「ぐぁあッ!?」
「ガァっ!!」
「ウグッ!?」
護衛として付いていた天界騎士たちが、1秒にも満たない時間で全員地面に叩き落とされた。
ジェットによる姿勢制御すら許さない、圧倒的な威力の連撃だった。
副小隊長も例外ではなく、背中の神力ジェットパックを刹那の内に切り刻まれていた。
「う……おっ!?」
状況の異変は、別の場所でも同時に発生していた。
王城西側を攻めていた部隊は、マッハで飛んでいるにも関わらず電撃の流星に追われ、喰われるように撃墜されている。
北部の部隊は、なぜか一定エリアに近づいた瞬間に神力の供給を絶たれて墜落していく。
「なかなか面白い装備ですが、会長の琴線には触れなさそうですね……だったら」
「ひっっ……ッ!!」
背筋に冷たい何かが走った。
当然だ、ジェットの推力を失って自分も落ちるはずが……誰かに背を掴まれているのだ。
「会長の興味を引けないガラクタは、綺麗にリサイクルしないと」
「や、やめろ……っ! 何をするつもりだ!」
耳元で、少女の声が響いた。
「何を? ウッフフ……今さらそんな質問ですか。貴方たちは人類の何もかもを壊しにいらっしゃったんでしょう? だったら……」
「ガボっ!?」
激痛と共に、副小隊長の胸と口から血が溢れ出る。
「こちらも全部、壊してしまって構いませんよね?」
天界副小隊長の心臓を、スーツごと宝具『インフィニティー・オーダー』で貫いたユリアは……ゴミでも捨てるように空中から彼を放り投げた。
「さて、近衛の方々のメンツを立てて参戦が遅れましたが……会長の代わりを、今はしっかり務めましょうか」
世界最強の竜王に付き添う、3体の竜が戦線に現れたことで––––状況は一変した。




